沢野ひとし【食べたり、書いたり、恋したり。】第28回『生モノが大好きです』

人知れず繰り返される、闘いの日々。だってアナタが大好きだから。イラストレーター・沢野ひとしさんが“食”にまつわる思い出や発見を、文章とイラストで徒然に綴る連載です。沢野さんの新刊『中国銀河鉄道の旅』にも、中国での美味しい闘いの記録が満載です。

 暴飲暴食を繰り返して立派な老人に成長してきた。だが生モノが好きなので、年に一回は食あたりで、のたうち回っている。多くの場合、加工されていない海産物などが原因である。
 これから陽気も良くなってくると、気をつけなくてはいけないのは食中毒である。人生に当たりはないが、お腹は大あたりの連続であった。

 まず二十代の初めの頃に東京駅近くの中華料理店でエビチリの小エビにあたった。ひどいジンマシンでその夜は悪夢をみた。それ以降も献立に小エビが登場するたびに、こりずにジンマシンになっていった。勝てない相手は免疫にはならないものだ。


 おなじみのカキにも大あたりした。仙台のあまりきれいとは言えない怪しい居酒屋でカキを山ほど食べて、山ほど下痢をした。カキは清潔な専門店にかぎる。


 海外旅行が多くなると、腹下しも経験豊富になり、より慎重になってくる。中国や東南アジアを旅して開いた悟りは「酒以外気をつけろ」であった。
 タイのリゾート地では、氷にあたった。うっかりアイスコーヒーを頼み、その夜からとぎれることなくトイレに通う休暇になってしまった。

 飽きることなくこの七~八年、中国各地を旅してきたが、油断しないように絶えず「酒以外は危ない」と目を光らせていた。旅行カバンの中には、もしもの時のために、特別に病院からいただいた、抗生物質も潜ませてある。
 だが敵もしたたかである。昼食に北京のこざっぱりとした日本レストランに入り、親子丼を注文した。ホテルに帰ると、その夜はトイレにはいつくばるありさまであった。ドンブリに乗った半熟の卵に菌がいたのだ。その後三日間、病人状態でふらふらになっていた。

 浙江(せっこう)省の寧波(ニンポー)では初日にスイカで大あたりした。成田空港から上海を経由してきた時の食事を一つずつ指折り、考えてみた。「あっ屋台のスイカ」と思いあたり、お腹を押さえながらその夜深く反省した。
 屋台では包丁とまな板に気をつけろと中国旅行の先輩から聞かされていたのだ。スイカに罪はないが、それから一週間は断食療法であった。



【食べたり、書いたり、恋したり。】は、ほぼ隔週水曜日に掲載します。
 

文・イラスト:沢野ひとし(さわの ひとし)/名古屋市生まれ。イラストレーター。児童出版社勤務を経て独立。「本の雑誌」創刊時より表紙・本文イラストを担当する。第22回講談社出版文化賞さしえ賞受賞。著書に『山の時間』(白山書房)、『山の帰り道』『クロ日記』『北京食堂の夕暮れ』(本の雑誌社)、『人生のことはすべて山に学んだ』(海竜社)、『だんごむしのダディダンダン』(おのりえん作・福音館書店)、『しいちゃん』(友部正人作・フェリシモ出版)ほか多数。趣味は山とカントリー音楽と北京と部屋の片づけ。還暦後より中国語を学び続け、もはやライフワークでもある中国での放浪を綴った最新刊『中国銀河鉄道の旅』(本の雑誌社)が好評発売中。

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