新井由木子【まだたべ】vol.033 素早いペットボトルの巻

ものすごく転がったんですね、きっと。“まだ食べたことのないもの”が気になって仕方がないイラストレーター・新井由木子さんが、食べるモノや関わるヒトと奮闘する日々を綴ります。

 坂道ばかりの島で、母に見守られながら、わたしは転がるペットボトルを追いかけていました。

 一つの山を中心に据え頂のツンと尖った、その小さな島の名は利島(としま)。わたしの故郷式根島と本州の間にあります。
 式根島に帰るべく東京湾から乗る船は、利島付近に来ると、強い潮流によって、いつでも必ず強く揺れます。少しでも風が吹けば更に大きく揺れ、やがて『利島は海上の状態が悪いため欠航いたします』のアナウンスが流れることも多数。手すりにつかまらねば転がってしまいそうな揺れの中、無理をして甲板に出ると、緑色のキスチョコにも似た利島が、後ろに遠ざかっていくのが見えるのでした。

 なかなか着岸できないと思うからか、何百回と目にしているのに立ち寄ったことがないのがもどかしいのか、利島行きはいつしかわたしの念願となっていました。そしてとうとう、昨年のお正月、式根島から帰る日程を繰り上げて利島に寄る宣言をすると
「お母さんも行ってみたーい!」
 すぐに母が手を上げました。母と2人だけで旅をするのも、初めてのことです。

※【まだたべ】は、【思いつき書店】として世界文化社公式noteに移転しました。
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文・イラスト・写真:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。料理は上手ではないけれど、生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、食べること周りのことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook

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