中澤日菜子【んまんま日記】#14 あなたならどうする?

美味しく食べたいと思うほど、人の食べ方も気になります。この連載では、母、妻、元編集者、劇作家という顔を持つ小説家であり、美味しいものはしかるべきベストな状態で食したいと願う中澤日菜子さんが、「んまんま」な日常を綴ります。

 あなたならどうする?
 今回のテーマは「あなたならどうする?」であります。
 先日、友人の芝居を観に行ったときのことである。舞台設定は、ハンバーグ専門のとある洋食店。ラスト近く、主人公である友人が実際にハンバーグを食べるシーンがあった。ここでわたしは驚愕したのである。
 最初にぜんぶハンバーグを切り分けてる! 切り終えてからおもむろにひと切れずつ食べてる!
 これではせっかくの肉汁がぜんぶ流れ出てしまうではないか。芝居とはいえ「もったいないよ」と、こころのなかで叫んだ。
 終演後、さっそく友人をつかまえて問いただす。
「ねえ、いつもああやってハンバーグ食べてるの?」
 すると友人は苦笑いを浮かべ、手を振った。
「いえいえ。いつもは切っては食べ、ですよ。あれは演出です」
 そうか、そうだったのか、そうだよね、やっぱり。
 一度は納得したわたしであったが、もしや普段そのように食べているひともいるのではないか、という疑問が頭をよぎった。
 どうですか、ハンバーグ。あなたならどうする?

 同じようなケースに、ホットケーキをどう食すか、という問題がある。
 だいぶ以前のことだが、とある男性の友人とホットケーキを食べたとき、その食べかたにやはり驚いたことがある。
 彼は運ばれてきたホットケーキに、まずまんべんなくシロップとバターを塗り、そのあときっちり八等分してから食べ始めたのだ。
「なぜそんな食べかたをするの?」
 こたえて彼曰く「こうすれば、まったく均一に同じ味が楽しめるでしょう」。
 ちなみに彼は、カレーライスもすべてかき混ぜてから食すそうだ。「ルーやご飯が余らないように」だそうである。スジは通っている。通ってはいるが――なんとなく釈然としない。
 どうですか、ホットケーキ。そしてカレー。あなたならどうする?

 とはいえ「最初にぜんぶ切っちゃう派」は、ごく少数である気がする。だってあんまり見かけたことないもん。だが、最後の食材に関しては、意見が真っ二つに割れるのではないだろうか。

 その食材とは、茹でガニである。

 美味しいですよね、茹で上がったばかりの、身のみっしり詰まったカニ。
 ひとりでカニに取り組むだけなら問題はない。ひたすら無言でほじくっては食べ、を繰り返せばよいのだから。もしくは気心の知れた友人となら、適当な相づちを打ちながら食べても問題はなかろう。
 悩むのが、仕事の打ち合わせの席でカニが出てきたとき。編集者と次回作の話をしながら、同時に身をほじくる。これはかなり難易度の高いミッションだ。では、まずすべての身をほじほじして、カニ山を作ってから食べればよいか。でもそうなると最初のほうにほじった身が乾燥してしまう気がする。やはり茹でたカニはジューシーなまま食べたい。
 悩む。非常に悩む。しかもわたしはものすごく不器用だ。ほじくるだけで、永遠にも似た時間が流れてしまう。
 けれどもすべての作業を終えてから、一気に食べるという誘惑も捨てがたい。
 ああ、どうしたらいいのだろう。こうして毎回悩みつつ、結局半分くらいほじって、あとは成り行きにまかせるという、とても中途半端な状態に陥ってしまう。
 カニをほじりつつ食べるか、身をぜんぶ出してから食べるか。
 さあ「あなたならどうする?」



【今日のんまんま】
 きのこのたっぷり入ったハンバーグ、デミグラスソース。濃厚なソースがジューシーなハンバーグによく合う。んまっ。



ヴァンルージュ・ヴァンブラン/東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング


【んまんま日記】は、ほぼ隔週水曜日に掲載します。
 

文・イラスト・写真:中澤日菜子(なかざわ ひなこ)/1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。日本劇作家協会会員。1988年に不等辺さんかく劇団を旗揚げ。劇作家として活動する。2013年に『お父さんと伊藤さん』で「第八回小説現代長編新人賞」を受賞。小説家としても活動を始める。おもな著書に『お父さんと伊藤さん』『おまめごとの島』『星球』(講談社)、『PTAグランパ!』(角川書店)、『ニュータウンクロニクル』(光文社)、『Team383』(新潮社)がある。最新刊は『アイランド・ホッパー 2泊3日旅ごはん島じかん』(集英社文庫)。
Twitter:@xrbeoLU2VVt2wWE

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