沢野ひとし【食べたり、書いたり、恋したり。】第33回『中国のご飯』

日本人から見ると少し不思議な気がする、白いご飯との距離感。イラストレーター・沢野ひとしさんが“食”にまつわる思い出や発見を、文章とイラストで徒然に綴る連載です。沢野さんの新刊『中国銀河鉄道の旅』でも、日本人との価値観の違いが明らかに。



 この数年、中国各地を当ても無く旅しているが、どこの都市もまるで上海や北京の跡追いをしているような、高層ビルだらけの特徴がない町が多くなってきた。
 そんな中、最も辛い中華料理といわれる四川料理の人気が年々高まり、どの町でも火鍋の専門店に客が傾(なだ)れ込み、激辛の麻婆豆腐を口にしては汗だらけになっている。




 かくいう私も四川料理が大好物である。不満があるとすれば、炊いた白いご飯の味である。まず小さなお椀にぎゅうと押し込んでくるので、ご飯が固まる。日本のようにふんわりとよそわない。しかも決まって冷めていて味気ない。
 お粥やチャーハンやおこげには料理人も熱心になるようだが、どうも単なるご飯はそっぽを向かれているようだ。




 中国の食堂に入る時、厨房をできるだけ見ることにしている。トイレに行く時も、ついでに必ずじっと盗み見ている。
 ご飯がまずい原因の一つは炊飯器が至ってお粗末というところにある。電気炊飯器なども日本の四十年前ぐらいの品質の物を使用している。




 以前に北京の知人の家を訪問した時に、お米の研ぎ方にあまり感心しなかった。水道の蛇口をひねり、一~二回、お米をぐるりとかき回し、ガス釜の炊飯器に目分量の水を入れてセットすると、水に浸すことなくスイッチを入れた。驚いて
「もっとお米を研いだほうがいいのでは」
 とやんわり言うと
「栄養が逃げていく」
 と答える。さらに
「水に二十分は置いたほうが……」
 と言うと
「いつもこうしている」
 と呑気な顔をしていた。



 夕食は魚の入った辛い火鍋で、主食は饅頭であった。ふかしたての饅頭は、さすがに中国の蒸しパンのおいしさであった。口中に少し甘みが広がり、辛い鍋との相性も抜群である。
 そして白いご飯はといえば、あの中国各地で食べた、例のパサパサしたなんとも不味いご飯であった。

 上海などで中国人が握る寿司店に入ると、ネタの違いは少しは我慢できるが、白い米粒にやはり不満が出る。



【食べたり、書いたり、恋したり。】は、ほぼ隔週水曜日に掲載します。
 

文・イラスト:沢野ひとし(さわの ひとし)/名古屋市生まれ。イラストレーター。児童出版社勤務を経て独立。「本の雑誌」創刊時より表紙・本文イラストを担当する。第22回講談社出版文化賞さしえ賞受賞。著書に『山の時間』(白山書房)、『山の帰り道』『クロ日記』『北京食堂の夕暮れ』(本の雑誌社)、『人生のことはすべて山に学んだ』(海竜社)、『だんごむしのダディダンダン』(おのりえん作・福音館書店)、『しいちゃん』(友部正人作・フェリシモ出版)ほか多数。趣味は山とカントリー音楽と北京と部屋の片づけ。還暦後より中国語を学び続け、もはやライフワークでもある中国での放浪を綴った最新刊『中国銀河鉄道の旅』(本の雑誌社)が好評発売中。

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