中澤日菜子【んまんま日記】#15 韓国編 その1

ついに言わずと知れた、あの“んまんま”な国、韓国に初上陸! この連載では、母、妻、元編集者、劇作家という顔を持つ小説家であり、美味しいお肉をこよなく愛する中澤日菜子さんが、「んまんま」な日常を綴ります。
二〇一九年五月中旬、わたしは古くからの友だちRちゃんと三泊四日の女ふたり旅に出た。目指すはソウル。言わずと知れた美食と買い物、そしていにしえからの文化の薫る魅力的な街である。
Rちゃんは渡韓八回目、ハングルもほぼ習得している大の韓国通。対してわたしはこれが初めての韓国、もちろん韓国語はおろかソウルの街並みもまったくわからない超初心者である。とにかくRちゃんを頼りにソウルを楽しもうと決めた。
金浦(キンポ)空港に着くや、Rちゃんの友人・フナくんが出迎えてくれる。聞けばメールを介して知り合ったそうで、Rちゃんも会うのはこれが初めてだとか。
「アニョハセヨー」
挨拶を交わすふたりを見習ってわたしも「アニョハセヨー」。
フナくんはソウル在住の四十八歳、会社員。長身で笑顔が可愛らしい男性だ。韓国では年上を敬う文化が浸透しているので、フナくんはわたしたちふたりを「ヌナ」(お姉さん)と呼び、とても丁寧かつ親切に接してくれる。日本語を習い始めて四か月、片言だけれど話すことができる。だがやはり意思の疎通はRちゃんの韓国語が一番有効。Rちゃんに通訳してもらいながら旅することになる。
まずはホテルにチェックイン。今日明日と泊まるのは東大門(トンデムン)にある「ホテル スカイパーク キングスタウン東大門」。巨大なショッピングモールの上階に位置し、買い物にも食べ歩きにもとても便利な場所だ。
「日菜子さん、まずなにがしたいですか?」
フナくんに聞かれたわたしは勢いよく手を挙げる。
「はい! 書店に行って韓国版『お父さんと伊藤さん』を探したいです」
二年前になるが拙著『お父さんと伊藤さん』が韓国語に翻訳され、なおかつ映画も上映されたのである。だから韓国に行ったらぜひ書店に並ぶ拙著を見てみたかったのだ。
「わかりました。じゃあまず永豊文庫鍾路(チョンノ)本店に行ってみましょう」
フナくんを先頭に、地下鉄を乗り継ぎ、お店へと向かう。
だが残念なことに在庫はすでにないという。すぐにフナくんが検索してくれ、教保文庫光化門(クァンファムン)店に移動。けれどもそこにも拙著はなく……諦めかけていると、店頭で他店舗の在庫を検索していたフナくんが大きな声を上げた。
「ありました! 泊まってるホテルの地下、教保文庫東大門店に一冊だけ!」
これこそまさに灯台下暗し。地下鉄に乗ってホテルに戻り、残っていた一冊をフナくんがお買い上げ。ありがとうございます!
そんなこんなで午後は過ぎ、いよいよ待望の夕食の時間に。韓国最初の夜はやっぱり焼肉でしょうということで、フナくんに案内され、馬場洞(マジャンドン)畜産物市場へゴー。その名の通り、かつてこの地にあった食肉処理場に隣接した市場で、新鮮な韓国産牛肉がお安く食べられる穴場中の穴場だ。店頭で好きな肉を好きなだけ買い、二階にある共同セルフ式焼き処に行って、じぶんたちで肉を焼き、食べるシステム。キムチやナムルもセルフサービスなので店員さんに気兼ねしなくてよいのもマル。
分厚くて適度に脂の乗った巨大な一枚肉を、炭火のコンロの上でじゅうじゅう焼く。おおう、匂いだけですでに美味しそう! 焼き目をつけてから、食べやすい大きさに料理ばさみでじょきじょき。塩、コショウ、ごま油をつけて、あるいは甘味噌とともにサンチュに包んでいただきまーす。
う、美味い……。柔らかく、けれども歯ごたえしっかりの牛肉は、噛めば噛むほど肉汁があふれ出てくる。お肉の脂でべたついた口に、辛みと酸味が絶妙なキムチがぴったりと合う。生ニンニクのスライスや青唐辛子は容赦のない辛さだが、これがまた食欲を刺激する。もうね、いくらでも食べられちゃいますよ、これは。
締めに、辛くない韓国風お味噌汁・テンジャンチゲとご飯をいただき、もうお腹ははちきれんばかり。たらふく牛肉やキムチを食べ、ビールを数本に焼酎一瓶でお値段なんと三人で約一万五千円! 大の肉好きのわたしは思わずめまいを覚えた。
大満足でお店を出てから、明洞(ミョンドン)をぶらりと散策。色とりどりの食べもの屋台に、コスメ店、華やかな洋服屋さん……見ていると、あれもこれも欲しくなってしまう、これぞソウルマジック。
とはいえすでに体力は限界。ホテルに戻って休むことに。
明日はどんな一日になるかなあ……わくわくした気分で眠りに落ちた、ソウル一日目の夜であった。
【今日のんまんま】
厚さ、大きさ、柔らかさ、いずれも文句なし!の一枚。んまっ!
(馬場洞畜産物市場)
【んまんま日記】は、ほぼ隔週水曜日に掲載します。
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