新井由木子【まだたべ】vol.049 草加のバル・スバルと水風船大会の巻

草加の夏の風物詩となるや否や? “まだ食べたことのないもの”が気になって仕方がないイラストレーター・新井由木子さんが、食べるモノや関わるヒトと奮闘する日々を綴ります。

 あれは去年のこと、野菜料理の美味しい草加のバル、『バル・スバル』とわたしの営むペレカスブックがコラボして、手ぬぐいを作ったのでした。
 バル・スバルの女店主(以下スバル)とペレカスの共通点は、ホラー映画と本と猫が好きなこと。モチーフとしたのはバル・スバルにしょっちゅうやって来る目つきの悪いノラ猫と、ペレカスブックのシンボルマークの魚猫。その2つを合体させて、目つきの悪い魚猫柄の手ぬぐいを作ることに決まったのでした。

 ところで、手ぬぐいというのは製造ロットがとても大きいものです。でも腐るものではないし、まあいいか、と合意する2人です。わたしも大らかですが、スバルも割と大らかなのです。
 しかし、山のような手ぬぐいが出来上がることをある程度は予想していたものの、実際に目にする手ぬぐいは、本当に山のような塊でした。それを、薄皮を剥がすように、1枚、また1枚と販売していくのですが、1年たっても山は全然小さくならないのでした。

 バル・スバルはわたしの自宅とペレカスブックを結ぶ草加宿場町通りの街道上(以前ご紹介したecoma coffeeの正面・まだたべvol.021参照)にあります。なので、毎朝毎晩バル・スバルの前を通る度に、
『ここに、手ぬぐいの山が、あるな……』
 と思うのです。そして毎朝毎晩、申し訳ない気持ちになるのでした。
その気持ちは今年に入ってピークに達し、少しでも手ぬぐいが人手に渡るよう『手ぬぐいがついてくるスバル自宅での夕涼み会』を、開催する運びとなったのでした。

 その日、直撃するかと思われた台風は逸れ、絶好の夕涼み日和となり、知り合いの主に親子連ればかり30人くらいがスバル宅に集まりました。前もって渡した手ぬぐいを、みんなが思い思いに巻いてくれて、涼しげです。
 大人たちは、それぞれ居心地の良い場所に陣取ってハイボールを飲みます。良いタイミングで浴衣姿のスバルが食べ物を乗せた皿を持って、人々の間を行き来します。


夕涼み会の会場


当日のサンドイッチ


野菜たっぷりバル・スバルのメニュー色々

 そんな中、子どもたち担当のわたしは、ビニールプールの前に陣取り、この日に是非ともやりたかった水風船ぶつけのための風船を、ひたすら膨らませておりました。そもそも夕涼み会の会場をバル・スバルでなく、庭があるスバル自宅にしたのはこのためです。
 ビニールプールに乗り出して今か今かと待っている子どもたちを焦らしまくって、とうとう
「ヨシ!」
 と合図すると、水風船ぶつけ合戦が華々しく始まりました。それはそれは激しい戦い。初対面の子もぶつけ合っています。

しかし、はしゃげば度を越すのが子どもの常です。
「1回に1コしか持っていってはイカン!」
「塀を乗り越えるんじゃない!」
「順番だから待て!」
 子どもたちは言うことをちゃんと聞いたり、聞いたふりをして見ていないところで悪さを繰り返したりして、みんな夢中になって水風船で遊びました。

 ところが、度を越したのは子どもだけではありませんでした。
 そこにいたのはフランス人の青年。道の向こう側の民家に向かって水風船を投げたり、子どもたちを引き連れて道路に走っていったりしています。
『これは、許されぬ!』
 わたしの中の怒れる魔神が、むっくりと頭をもたげました。わたしはおごそかに青年の肩を叩き、振り返った彼の青い目をじっと見つめました。そして道の向こうに風船を投げる真似をし、それから非常口のマークのように走るポーズをしてから道を指差し、最後にわたしにできる限りの怖い顔をして両手をクロスしてバツマークを作りました。
 渾身のボディランゲージが効果的だったのか、それから青年は少し大人しくなりました。ヨーロッパ圏でもバツマークって有効なんでしょうか?

 人様の子ども(とフランス人青年1人)をたくさん叱ったけれど、みんな楽しい顔をしていて、可愛いかったです。少し小さい子は、風船が爆発するまで握りしめる実験をしたり、地面に叩きつけたりして、それなりの遊び方を見つけていました。

 使った水風船は計300コにのぼりました。
 夏が来る度にあと20回この会をやると水風船は6000コ必要ですが、ようやく手ぬぐいはなくなり、わたしは70歳になっています。
 しかし、それはあくまでスバル分で、ペレカス分はまた別の話です。

(了)


【まだたべ】は、毎週木曜日に掲載します。
 

文・イラスト・写真:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。料理は上手ではないけれど、生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、食べること周りのことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook

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