沢野ひとし【食べたり、書いたり、恋したり。】第40回『酢ショウガが私を救う』

そういえばお寿司にも焼きソバにも、ショウガはつきものですね。イラストレーター・沢野ひとしさんが“食”にまつわる思い出や発見を、文章とイラストで徒然に綴る連載です。現在、沢野さんが丁寧に取材した絵本、月刊『たくさんのふしぎ』9月号「一郎くんの写真 日章旗の持ち主をさがして」(福音館書店)が発売中。そして、この連載『食べたり、書いたり、恋したり。』が本になりました。電子書籍としてAmazonほか主要電子書店にて絶賛発売中です。

 五年ほど前に日中混合の十名ほどのグループで、北京で食事をしていた。すると「人間にとって生きる力になるのは、ショウガとニラとニンニクだ」と中国人に断言された。中国人は男も女も料理や食べものの話になると目に力が入る。
 たっぷりのショウガとニラの入った餃子を食べた後なので、全員目が光っていた。そして上座の中国人が、あらゆる漢方薬の半分にはショウガが入っていると、諭すかのごとく話を締め、やがてショウガの粉末の入った瓶を日本人に売りつけてきた。その後、私は騙されたと思ってその粉末を飲み続けたのだが、たしかに体調は良くなった。 昨今、さすがに七十歳を超えると体力の衰えを感じる。やれ腰痛、耳鳴り、物忘れ、高コレステロール、むくみなど、年中疲れとだるさをぼやいている。
 そこであの中国人の言うことを素直に聞いて、自宅で酢ショウガを作ることにした。作り方は、ショウガをよく洗い、皮をむかず(ジンゲロールとかいう血流を改善させる成分が失われてしまうから)スライスして、ひたひたの酢に漬けるだけの簡単な作業である。
 それと同時にレンコン(軽く湯通しする)、シシトウ、ダイコン、ニンジンなどの酢漬けの瓶も、冷蔵庫の中に押し込んだ。扉を開くと酢の瓶がところ狭しと潜んでいる。

 酢ショウガが食卓に登場してから二週間ほど経つと、「あれ、なんか体温が上昇してきたみたい」といつも冷え性の妻の顔に赤みが差してきた。
 そういえば私も、疲れやだるさが少なくなってきた。ショウガのジンゲロールには、老化や疲労の原因となる活性酸素の発生を抑えたり、免疫機能を活性化させる働きがある。


 あれから五年たち、一度も寝込むことも、ひざ痛や腰痛もなくなった。酢ショウガの辛み成分の一つ、ショウガオールには血管拡張作用もある。妻は「本当に美容にもいいわ。肌のツヤが全然違う。シミ・シワも消えていきそう」と鏡の前で嬉しがっている。「よかったね」と嫌みの一つでも言いたくなったが、朝起きるなり軽やかにハミングしている人になにも言えなかった。
 酢ショウガを習慣にしてからも、数えきれないほど中国各地を旅しているが、たしかに、もしショウガの力がなかったら、一人で辺境といわれる土地に行く勇気が湧いてこなかったはずだ。
 ショウガオールは、抗酸化作用がビタミンEの三倍以上あると判明している。さらにアメリカ国立ガン研究所も、がん予防の可能性のある食品として、抗酸化のもっとも高いグループにショウガをあげている。
 ショウガは物忘れ、ウツ病にも効果があるという。こうなったら私の人生はショウガにすがるしかない。



【食べたり、書いたり、恋したり。】は、ほぼ隔週水曜日に掲載します。
 

文・イラスト:沢野ひとし(さわの ひとし)/名古屋市生まれ。イラストレーター。児童出版社勤務を経て独立。「本の雑誌」創刊時より表紙・本文イラストを担当する。第22回講談社出版文化賞さしえ賞受賞。著書に『山の時間』(白山書房)、『山の帰り道』『クロ日記』『北京食堂の夕暮れ』(本の雑誌社)、『人生のことはすべて山に学んだ』(海竜社)、『だんごむしのダディダンダン』(おのりえん/作・福音館書店)、『しいちゃん』(友部正人作・フェリシモ出版)、『中国銀河鉄道の旅』(本の雑誌社)ほか多数。趣味は山とカントリー音楽と北京と部屋の片づけ。絵を描いた最新刊の絵本、月刊『たくさんのふしぎ』9月号「一郎君の写真 日章旗の持ち主をさがして」(木原育子/文・福音館書店)が好評発売中。
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