新井由木子【まだたべ】vol.053 『お金さん』の巻

たとえ儲からなくても「大切だ」と思える仕事を断れない新井さん。きっと目に見えないご褒美もあると思うなあ。“まだ食べたことのないもの”が気になって仕方がないイラストレーター・新井由木子さんが、食べるモノや関わるヒトと奮闘する日々を綴ります。

 お金って、いったい世の中のどこにあるのだろう?
 しばしば、そんなことを思う人生を送ってまいりました。それもこれも、あまり人気もないくせに画業にしがみついているからで、誰のせいでもありません。自分のせいです。
 そんな中でも、一緒に仕事をしたいと言ってくれる編集者さんたちのおかげで、画業の道は細くとも途切れずに続いてきました。文芸誌での挿絵や文章の連載、それから本を3冊出すことができました(最近はエッセイに挑戦させてくれる編集者さんまで現れました)。
 最初の本が出るときには、娘はもうこれでお城に住めると思ったらしく、出かけて行った表参道の家々を見ては、こんな感じが良いなどと夢を語っていましたが、もちろん現実にはなりえませんでした。

 そんな日々が積み重なり、ある大きな挿絵連載が終わった時に気がついてみると、わたしは50歳を目前にしておりました。絵を描く以外に何のスキルもなく、その絵ですら、ただひたすら良い線を描こうと思い続けて描いていただけ。それをいかに商売にするかという部分はスッポリと抜け落ちたままでした。
 後戻りのできない道を、こんなにも呑気に歩いてきてしまったとは!
 天下一品の世間知らず。呆然としたって、自分を罵(ののし)ったって、もう、どうしようもないのでした。

 そして遅まきながら考えた、自分のスキルを直接お金にする方法が、ペレカスブックという自身の書店を構えることでした。
 お店に本を並べると、毎日チャリンチャリンと、目に見えるお金が入ってくるようになりました。しかし本の代金はほとんどが仕入れ価格で、利益率はわずかに20パーセントしかありません。1000円レジに入っても1000円儲かったと思ってはいけないのです。儲けは200円です!
 世の中のどこにあるのかと思っていたお金は、目に見えるようにはなりましたが、それは目前を流れる小さな川のようでした。僅かな水しぶきを恩恵としてくれながら、大半は目の前を流れ去っていくのです。

 それからだんだん、草加の町のお店から絵のスキルを生かした仕事の依頼がくるようになりました。お店のラッピングペーパーや、ロゴや、製品をアピールするためのあれやこれやです。
 ファーマーズハウス チャヴィペルト(chavi pelto)の蜂蜜シールやスパイスシール、バル・スバルの手ぬぐい、エコマコーヒーのタグ、などなど……。
 これらの仕事に関しては、お金はまとまった額で、忘れたころにドン! とやってきます。やってきた時は、わたしの頰はバラ色に染まり、サッカーのチームを組めそうな野口英世さんや、音楽ユニットを組めそうな福沢諭吉さんの群れと、再会の喜びに涙します。

 ところがです。
 なんと、しばらく滞在してくれると思った福沢さんも野口さんも、次の行き先が決まっており、すぐに旅立たねばならないと言うのです。次の行き先とは、わたしの考えついた(儲かる計算をしていない)新しいプロジェクトだったりすることもありますが、何故かそのタイミングに合わせて壊れるパソコンだったり、家にやってきたシロアリだったりします。
 それはまるで、蜘蛛の子を散らすような居なくなり方です。朝にやってきた福沢さんも野口さんも、夕方には居ない。わたしは皆さんの座っていた座布団の数を、虚しく数えるのでした。

 最近になると、全然お金は儲からないけれど大切だ、というお仕事が来るようになりました。それは、どうしても応援したい新店舗の手伝いだったり、町の神社のお祭りの計画だったり、町内会の議事録係だったりします。儲からないのに時間だけはガッチリかかるので、その仕事中に郵便貯金の残高を思い出すと、ちょっとドキドキします。
 しかし、お金ではない価値のあるお仕事は、関われるだけで胸の高鳴るような誉れがあり、断れません。

 そしてそんな仕事をしているとやはり御利益があるのか、やたらと人におごってもらえるようになったのが不思議です。
 ミルクコーヒーをお菓子屋さん『パカン』を始めるアヤノちゃんから。
 エコマのクッキーをスバル(まだたべvol.049参照)から。
 ホットサンドをチャヴィのオトーサン(まだたべvol.010参照)から。
 エコマコーヒーにておごってもらった時は、神社の祭りの打ち合わせ中でした。
 町内会の後、さんざん呑んだ分を全部、薬局のおじさんに払ってもらったこともあります。そしてこの原稿を書いている最中には絵描きのキヨシ(まだたべvol.031参照)が来て、高級タピオカドリンクをくれました。

 神様は、わたしがお金によって、おごり高ぶらないようにしてくれているのかな。そして何もかもが嫌にならないよう、小さなご褒美を与え続けてくれているのかな。
 それでいいかな、と思う今日この頃です。


草加のファーマーズハウス チャヴィペルトの『やさいスパイス』。箔を使った特別な白い印刷です。千住のシール工場で相談しながら作りました。


草加のファーマーズハウス チャヴィペルトの『Veg honey』。チャヴィペルトの養蜂場で採れる蜜は、季節と共に変わる畑の作物によって、色も味わいも変わります。シールはシンプルに作りました。


エコマコーヒーの『キャットストリートブレンド』のタグです。孔版印刷で作られたタグには、地域に実在する猫が次々と登場します。

(了)

【まだたべ】は、毎週木曜日に掲載します。
 

文・イラスト・写真:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。料理は上手ではないけれど、生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、食べること周りのことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook

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