新井由木子【まだたべ】vol.063 太ってますよの巻

「自分のことは、自分が一番よくわかっている」とは言うものの、人から教えられることはたくさんあります。“まだ食べたことのないもの”が気になって仕方がないイラストレーター・新井由木子さんが、食べるモノや関わるヒトと奮闘する日々を綴ります。

 先日、カオリさんという定期的にペレカスブックに絵本を選びにいらっしゃる素敵な方が来店された丁度その時、わたしの娘がカフェコンバーションにランチを食べにきていました。
「あれがわたしの娘なんですよ」
「まあ! なんてスタイルの良い、お綺麗な娘さんなんでしょう!」
「でしょう。わたしの子とは思えないくらい細いでしょ。だいたいね、同じ食卓にいても、ものを食べる順序が違いますよ。唐揚げとサラダを出したら、わたしだったら唐揚げから食べますけど、あの子は自然とサラダから食べてますもの。小さい時からそうなんです」
 すると、カオリさんは目を丸くして、自分自身に呟くように言いました。
「食べる順序が違う。それだけのことで……そんなっにも……違ってしまうんですね……!」
 カオリさんが本気で驚いているので、わたしもなんだか驚いてしまいました。
 太っている自覚はあるつもりでしたが、そんなに驚かれるほどに太っているのだと、教えてもらったような気持ちになりました。

 このように人から教えられることもあれば、日常の中のさりげないものが、太っていることを教えてくれることもあります。
 ある時洗濯物干しから直接、黒いスパッツを取ってその場ではくと、生地がきしむ感覚がありました。きっと洗濯したてだから縮んでいるのだと思い、お腹まで引き上げるとミシミシミシミシッと、スパッツ全体を構成している繊維が限界を超える音がしました。
 それは娘のスパッツだったのです。脱いでみると、全体の繊維が伸びきりスパッツとしての命を失った物質が、わたしの手からだらりと垂れ下がりました。
 スパッツ(Sサイズ)がその生命を賭して、わたしが娘よりどんなに大きいか(3L)教えてくれたのです。

 また、暖かい季節にはワンピースの足元に下駄を合わせるのが好きなわたしですが、下駄はどれもことごとく1カ月しないうちに壊れてしまいます(安価な下駄を購入しているせいかもしれませんが)。その壊れ方は、鼻緒が切れるとか、下駄の歯が折れるとかいうレベルではなく、まるで怪獣が木を踏みしだいたかのごとく、木板の部分がペシャンコのバラバラになってしまうのです。
 聞いたところによると、力士は序ノ口・序二段のうちは下駄、三段目でエナメル製の雪駄、そして十両になると畳敷きの雪駄を履くことができるそうです。確かに、闘うための身体が整った力士には、下駄より雪駄の方がその風格に似合う気がしますが、もしかしたら力士界でも下駄は壊れ続けていることが、理由なのかもしれません(わたしの妄想です)。
 木板ではなく畳面の雪駄なら、わたしの下駄のような壊れ方はしません。ギブアップすることなく相撲の道を進むと決めた力士には、壊れにくい雪駄のほうが便宜上良いのかもしれない。
 わたしも太り続けてもう10年以上。おデブ界の十両には確実に昇進している感覚があります。重すぎるよと訴えながらバラバラに壊れる可哀想な下駄を増やすのをやめて、雪駄にしたほうが良いかもしれませんね。

 ところで、わたしは揚げ物が上手です。
 料理上手の母でさえ
「天ぷらは由木子が作ったほうが旨い」
 と言いますし、娘もわたしの鶏の唐揚げは絶賛しています。娘の言うには
「ママみたいな見た目の人が揚げたと思っただけで、すごく美味しく感じる」
 とのことです。
 それだけは、太っててよかったなーと思います。




(了)


【まだたべ】は、毎週木曜日に掲載します。
 

文・イラスト・写真:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。料理は上手ではないけれど、生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、食べること周りのことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook

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