沢野ひとし【食べたり、書いたり、恋したり。】第4回『佐野洋子さんのイス』

生きるうえで食べることは不可欠ですが、人生はそれだけではありません。寝たり起きたり、仕事をしたり、人に会ったり、旅に出たり。ときには恋もすれば、辛い別れもあります。一見、食べることとは無縁でも、忘れかけていた人生の一場面が、舌の記憶とともに鮮やかに蘇ることもあるでしょう。この連載では、イラストレーター・沢野ひとしさんが、人生のさまざまな場面で遭遇した“食”にまつわる思い出や発見を、文章とイラストで徒然に綴ります。

 佐野洋子さんと親しくなったのは、彼女が多摩市連光寺に新築を建てた頃である。家の隣が桜ヶ丘公園で、春は花の雲が空一面に広がっている。
 私の住む町田から車で二十分の距離と近い。絵本の出版社こぐま社を退職してフリーになった四十歳の頃で、阿呆に付ける薬はなしといった状態で、毎日街や山で遊びまわっていた。

 洋子さんの家は山小屋のように至ってシンプルな造りで、私は友人を誘い酒ばかりごちそうになっていた。洋子さんは料理もとてもうまかった。しかしこれでは申し訳がないので、早目に行ってはガラス磨きや部屋の掃除を率先して手伝っていた。

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※【食べたり、書いたり、恋したり。】は、世界文化社公式noteに移転しました。
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文・イラスト:沢野ひとし(さわの ひとし)/名古屋市生まれ。イラストレーター。児童出版社勤務を経て独立。「本の雑誌」創刊時より表紙・本文イラストを担当する。第22回講談社出版文化賞さしえ賞受賞。著書に『山の時間』(白山書房)、『山の帰り道』『クロ日記』『北京食堂の夕暮れ』(本の雑誌社)、『人生のことはすべて山に学んだ』(海竜社)、『だんごむしのダディダンダン』(おのりえん作・福音館書店)、『しいちゃん』(友部正人作・フェリシモ出版)ほか多数。趣味は山とカントリー音楽と北京と部屋の片づけ。

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