沢野ひとし【食べたり、書いたり、恋したり。】第17回『優雅な避暑地』

生きるうえで食べることは不可欠ですが、人生はそれだけではありません。寝たり起きたり、仕事をしたり、人に会ったり、旅に出たり。ときには恋もすれば、辛い別れもあります。一見、食べることとは無縁でも、忘れかけていた人生の一場面が、舌の記憶とともに鮮やかに蘇ることもあるでしょう。この連載では、イラストレーター・沢野ひとしさんが、人生のさまざまな場面で遭遇した“食”にまつわる思い出や発見を、文章とイラストで徒然に綴ります。

 今年の夏の猛暑は人間の思考を停止させ、若者から高齢者まで体調を整えるのが至難の業であった。私はとあるリゾート地にのんびりと避難していた。
 高原に別荘を持っている知人は現地で極楽トンボを味わっているかと思えば、この夏の破壊的な暑さに、皆初めての地獄を経験した。八ヶ岳の別荘地の売り文句といえば「クーラーは無用」。だが標高1000メートルに満たないような場所は、東京と似たり寄ったりの暑さであった。別荘にクーラーが設置されていない知人は、眠れずに泣きながら都会の自宅に帰ってきた。




※【食べたり、書いたり、恋したり。】は、世界文化社公式noteに移転しました。
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文・イラスト:沢野ひとし(さわの ひとし)/名古屋市生まれ。イラストレーター。児童出版社勤務を経て独立。「本の雑誌」創刊時より表紙・本文イラストを担当する。第22回講談社出版文化賞さしえ賞受賞。著書に『山の時間』(白山書房)、『山の帰り道』『クロ日記』『北京食堂の夕暮れ』(本の雑誌社)、『人生のことはすべて山に学んだ』(海竜社)、『だんごむしのダディダンダン』(おのりえん作・福音館書店)、『しいちゃん』(友部正人作・フェリシモ出版)ほか多数。趣味は山とカントリー音楽と北京と部屋の片づけ。

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