新井由木子【まだたべ】vol.015 流人墓地の黒い雲の巻

何十年と生きていたって、世の中にはまだ食べたことのないものが溢れています。隣の家では毎日のように食卓に並んでいるのに、我が家では見たことも聞いたこともない、なんていう食べものもあるかもしれません。この連載では、そんな“まだ食べたことのないもの”が気になって仕方がない、というイラストレーター・新井由木子さんが、食べるモノや関わるヒトと奮闘する日々を綴ります。

 先日、学びたいことがありまして、伊豆諸島は新島へ行ってきました。
 おむすびばあさんなどもしているわたし(『まだたべ』vol.010参照)には日程が多くは取れず、案内をしてくれる母とは実家のある式根島ではなく、その隣の現地新島で落ち合う約束です。
 早朝、島に着いて船を降りると、桟橋に立つ母が二人。これは元々忍びの者を養成する隠れ里としての役割を古くから担ってきた島民に伝わる秘術によるもので、蜃気楼のように自分の姿をダブって見せる技です。
 というのはウソで、母の隣にほぼ同じ顔の叔母(母の妹)がいるせいでした。

 わたしたちは新島で暮らす叔母の家へまず移動。そこで食べた朝食の、叔母の畑で採れた野菜をふんだんに使った温野菜は、なんとも優しい美味しさでした。
 島は船で物資が運ばれてくる宿命上、新鮮な野菜が手に入りにくいのです。なので島民はたいがい、自分の家で食べる分くらいは賄える野菜畑を持っています。
 叔母の畑で収穫された万願寺とうがらしは肉厚で甘く、これも採れたてのニラはフワッと香り、食欲をそそる。特別な味つけをしなくても美味しかったのは新鮮さのせいなのかなあ。

※【まだたべ】は、【思いつき書店】として世界文化社公式noteに移転しました。
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文・イラスト:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。料理は上手ではないけれど、生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、食べること周りのことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook

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