新井由木子【まだたべ】vol.022 かんなんぼうしの巻

悲しい伝説にまつわる不思議な出来事。“まだ食べたことのないもの”が気になって仕方がないイラストレーター・新井由木子さんが、食べるモノや関わるヒトと奮闘する日々を綴ります。

 冷たい風の強い日です。こういう日はわたしの故郷、式根島の冬を思い出します。ビュウビュウと強い海風が常緑の椿や椎の木を揺すり、「ウサギが飛ぶ」と島の人が言い表わす白波が点々と、深い紺色の海の上に現れます。

 式根島を含む伊豆諸島では、旧暦1月24日を『海難法師(かんなんぼうし)』の日と呼んで忌み日にしています。それは恐ろしくも暗い伝説によるものです。
 昔、厳しい年貢の取り立てに来た悪い代官の船を島民たちが浸水させて溺れさせると、代官の体がバラバラになって各島に流れ着いた。これが『かんなんぼうし』だというのが、わたしが幼いころから聞き覚えていた伝説です。少し調べてみると、わたしの勘違いなのか、口伝するうちに変わったのか、怨霊は沈められた代官ではなく、沈めた側の島民でもあるらしいことがわかりました。
 それが大島ではしっかりとした伝説として残っていて、代官を沈めた島民たちを『日忌様(ひいみさま)』と呼び祀(まつ)っているようです。伊豆諸島各島での違い、時代ごとの変化も調べなければ責任のあることは言えないので、引き続き調べたいと思います。

※【まだたべ】は、【思いつき書店】として世界文化社公式noteに移転しました。
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文・イラスト・写真:新井由木子(あらい ゆきこ)/東京都生まれ。イラストレーター・挿絵描き。埼玉県草加市にある書店「ペレカスブック」店主。挿絵や絵本の制作のかたわら書店を営む。著書に『誰かの見たもの 口伝怪奇譚』『おめでとうおばけ』(大日本図書)、『まんじゅうじいさん』(絵本塾出版)ほか。「この世はまだ たべたことのないものだらけ。東京に近い埼玉県の、とあるカフェの中にあるペレカスブックで、挿絵や絵本を作りながら本屋を営んでいます。料理は上手ではないけれど、生まれ故郷の式根島と、草加せんべいの町あたりを行き来しながら、食べること周りのことを書いてゆきます」
http://www.pelekasbook.com
Twitter:@pelekasbook

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