東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.63- セピア色に恋して『コウイカのイカ墨パスタ』

イカの種類が豊富なことはわかっていても、色の語源になったイカがいるとは知りませんでした。初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法を、アウトドアライター・東雲輝之さんに教わります。

4月の海はまだ冷たく、沿岸に魚たちの姿はほとんどありませんが、春に産卵期を迎える生き物たちが徐々に岸に集まってきます。そのなかでも特に「コウイカ」は、初心者でも簡単に釣れて、しかも驚くほど美味しい、この時期絶好のターゲットです。

『コウイカ』ってどんな生物?

コウイカは胴の長さが約20cm程度のイカです。熱帯、または亜熱帯の暖かい海に生息しており、本州中部以南からオーストラリア北部、アフリカ沖まで分布しています。一般的に“イカ”として知られているスルメイカやケンサキイカとは異なり、胴体に硬い板のような石灰質の貝殻(甲羅)を持つことから、コウイカ(甲烏賊)と名前が付けられています。

ギリシャやスペイン、イタリアなどの国では、コウイカは「セピア」と呼ばれています。これはコウイカの、イカ墨由来のインクが昔、付けペン用のインクとして使われていたためで、セピア色の語源でもあります。

どこで釣れるの?

コウイカは本来、水深10~100mの比較的深い砂泥底に生息しています。しかし春先になると、産卵のために海藻が多く生える浅瀬に集まってくるようになるため、近場の防波堤でも釣れるようになります。またコウイカは、産卵を終えると死んでしまうため、寿命は約1年ほどしかありません。よって産卵期を迎える4~6月ぐらいが、大きなコウイカが釣れるベストシーズンとなります。

どうやって釣るの?

一般的にイカ釣りというと、小魚を模したルアー(餌木・えぎ)が使われますが、コウイカは海底を這うように移動する習性があるため、『スッテ』と呼ばれるオモリ付きの仕掛けを使ったほうがよいでしょう。

スッテに小魚や子ガニ、シャコといった餌を針金でくくり付けたら、防波堤から5mほど先にポンと投げ込みます。仕掛けが海底に着いたら、竿先で「ちょんちょん」と餌を動かし、ゆっくりとリールを巻きましょう。

コウイカは、他のイカと比べてあまり早く泳ぐことができないため、リールを素早く巻いてはいけません。まるで「瀕死の小魚やシャコが、海底を青息吐息で這い進んでいる」ようなイメージでそろそろと動かしましょう。

墨に御用心!

餌にコウイカが食いつくと、竿にゴミ袋が引っ掛かったような重さを感じます。あとは慎重にリールを巻いて釣り上げればよいのですが、このとき必ず海中で一度墨を吐かせるようにしましょう。コウイカは別名『スミイカ』と呼ばれており、その名が示す通り大量の墨を吐く習性があります。この墨はインクと同じように、服や靴などに付くと簡単には落とすことができないので、海中でいったん吐かせてから陸に上げます。


こちらは海中に吐き出された墨

釣り上げたあとに陸上で吐かせる釣り人もいますが、防波堤が黒く汚れてしまうので、マナーとしてやめましょう。


コウイカのさばき方

コウイカの下処理は、まず胴体にまっすぐ包丁を当てて、表面の皮を切ります。コウイカの甲羅はとても硬く包丁の刃を通さないため、力いっぱい切っても大丈夫です。



次に、甲羅と胴体の隙間に包丁を入れ、“フタ”を外すように甲羅をパカっと開きましょう。



甲羅を取り外すと内臓が見えるので、その中にある “墨袋”を破らないように、慎重に内臓をすべて取り外します。墨袋は、管がイカの口(イカトンビ)のほうに伸びているので、頭(目の付いている部分)を割るときに包丁で傷つけないように注意しましょう。内臓を取り外したら、頭と胴体を切り離し、頭からイカトンビと目を切り離します。胴体の薄い皮は、そのまま食べることもできますが、お刺身にしたい場合は包丁で削いで落としましょう。


美味しい墨を食べよう!

コウイカは、スルメイカやアオリイカといった他のイカに比べて、肉厚でもちもちとした食感が特長の美味しいイカです。お刺身として食べてもよいですが、火を入れると歯切れのよい食感に変わるため、イカリングや炒め物といった料理に向いています。



しかしコウイカの本当の魅力は“墨”にあります。イカはもともと、敵から襲われそうになったときに、敵の注意を逸らすための“撒き餌”として墨を吐きます。よってこの墨には、魚が好むうま味成分が含まれているため、人間が食べても美味しいと感じる食材です。

イカ墨パスタを作るには、まずイカ墨は墨袋ごと小皿にとっておき、コウイカの身と、トマト、しめじ、玉ねぎなどの野菜をオリーブオイルで炒めてから、注ぎ込みます。



イカ墨には、コウイカの肝臓(キモ)や、卵巣または精巣を混ぜておくと、うま味が増します。

最後に硬めに茹でたパスタを投入し、火にかけながら素早くかきまぜて、しっかりと乳化(茹で汁を加えパスタとソースを馴染ませる)させましょう。



コウイカ1匹から採れる墨の量は、大さじ2杯分ぐらいしかありませんが、これだけでも4皿分ぐらいのパスタのソースができるほど強いコクがあります。



初めてコウイカ釣りをする人は、墨を吐きかけられるのが怖くて、なんども海中で墨を吐かせようとしますが、ひとたびイカ墨を味わえば、「ああ! あんなに墨を吐いちゃって、もったいない!!」と感じるようになるはずです。



【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。
 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「孤独のジビエ」http://kodokunogibier.blog.fc2.com/
Twitter:@rakurou21

この連載のバックナンバー

▼ もっと見る