東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.86- 美味しい“魚の”おじさん『オジサンのマース煮』

世の中には楽しい名前のついたお魚がたくさんいるんですね。もちろん、魚は自分が何と呼ばれているのか、知る由もないとは思いますが。初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法を、アウトドアライター・東雲輝之さんに教わる連載です。

前回(vol.85)の「ウッカリカサゴ」のように、海の生き物には、面白い名前を持つものがたくさんいます。例えば、名前はかわいいのに強力な毒を持つ「スベスベマンジュウガニ」や、ヒラヒラと細長い銀白色の体が幻想的な「リュウグウノツカイ」、真っ白な渦巻き模様の螺旋(らせん)が美しい貝「テンシノハネガイ」、舌を噛みそうな長い名前の「ウケグチノホソミオナガノオキナハギ」なんていう魚もいます。そんな中でも特にユーモラスな名前なのが、オジサンです。……いえ、別に私のおじさんではないですよ。「オジサン」という名前の魚です。

『オジサン』ってどんな魚?



スズキ目ヒメジ科のオジサンは、体長25~35cm。インド洋、太平洋の暖かい海に生息する魚で、日本では駿河湾以南で見られます。

その珍妙なネーミングの由来は、アゴの下に伸びる2本の“髭”が、まるでダンディーに髭を伸ばしたおじさんのように見えることからきています。

どこで釣れるの?



オジサンは、サンゴ礁が広がる、比較的浅い岩場に生息しています。そのため岸から釣ると、糸がサンゴ礁に絡まって切れてしまうことがよくあるので、船の上から釣るほうがよいでしょう。

船は普通の釣り船でもよいのですが、オジサンはごく浅場(5~10mぐらい)にもいるので、このような場所で釣るときは、船よりもカヤックやゴムボートなどが向いています。

どうやって釣るの?



オジサンの髭は、ただの“おしゃれ”ではなく、その髭で地面を突いて、砂の中や岩の隙間の中に潜んでいる、餌となる生物を探し出す役割を持っています。よってオジサンの釣り方は、餌を針に付けて海底に落とし込む「胴付き」と呼ばれる仕掛けが向いています。

胴付き仕掛けは、船の上からオモリを海底に落とし、しばらく待ってから海底を「トントン」と叩くように竿を動かします。もし近くにオジサンが居たら、地面を叩く振動を髭で感じ取り、近づいてくるはずです。

意外と高級魚なオジサン



「オジサンを食べる」と書くと、ギョッ!とする字面ですが、実はオジサンは意外と高級魚で、特に沖縄では珍重されています。

その身はハリのある白身で、特に皮目に脂が乗っているので、皮を焼いて刺身にした『焼霜造り』という料理方法が向いています。

また、オジサンに限らずヒメジ科の魚は、骨から上等な旨味が出ます。そこで、アラで出汁を取り、豆腐や野菜、キノコなどに、切り身を入れて煮込んだ『マース煮』も最高です! その他にも、ポワレのような焼き物、甘辛く味付けした煮魚など、煮ても焼いても美味しい魚です。

ただし、オジサンの魅力を人に伝える時は、必ず「魚の」と付け加えましょう。
「昨日はオジサンを焼いて食べたんだけど、とっても美味しかった!」なんていうと、知らない人が聞いたらビックリします!



【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。
 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「チカト商会」https://chikatoshoukai.com/
Twitter:@rakurou21

この連載のバックナンバー

▼ もっと見る