東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.87- 触るのは「待て、しばし!」恐ろしい“毒針”を持つ魚たち

魚の世界でも、美しいものにはトゲ(毒)があるんですね。うっかり手を出さないように、しっかり覚えておきましょう。初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法を、アウトドアライター・東雲輝之さんに教わる連載です。

魚には図鑑に記載される標準和名とは別に、地方名(方言名)を持つものがおり、これらは大体、その魚の見た目や特徴などを言い表しています。例えば、カサゴは頭が大きいので「ガシラ(頭)」。ヒイラギは釣り上げると「ギィギィ」と鳴くから「ギギ」。傷むと酷いアンモニア臭を出すアイゴは、魚が好きなネコも無視して通るという意味で「ネコマタギ」という地方名を持っています。

そのような魚の地方名の中でも、特にユニークな由来を持つのが「マテシバシ」でしょう。優雅な見た目に反して強力な毒を持つ「ミノカサゴ」は、うっかり魚を触ろうとした釣り初心者に向けた“注意の一言”がそのまま地方名になっています。

『ミノカサゴ』ってどんな魚?



ミノカサゴは、太平洋の南西部とインド洋の暖かい海に分布する、体長25~30cmほどの海水魚で、日本には北海道南部以南の沿岸部に広く生息しています。 

この魚の最大の特徴は、水中でヒラヒラとひらめく長い背ビレと胸ビレです。海中を泳ぐミノカサゴは、まるで振袖を着て舞うかのような美しさがあるので、観賞用海水魚として飼育されることもあり、水族館でもよく展示されています。

ミノカサゴを触るのは、「待て、しばし!」

見て楽しむには申し分ない美しさのミノカサゴですが、実はその美しいヒレには強力な毒針が隠されており、釣りでその姿を見かけたときには注意が必要です。

ヒレの毒は死に至るような猛毒ではありませんが、毒針が指先に「チクリ」とでも刺さろうものなら、患部はズキズキと痛み、刺された手全体が赤く腫れ、冷汗はタラタラ。痛みで歯を噛み締めてしまうので、「痛い!」という言葉も発せられず、ひたすら「ぅぅ……ぅ……」とうなりながら、我慢するしかありません。

ミノカサゴの長いヒレは柔らかそうに見えるので、知らずについつい触りたくなってしまう気持ちもわかります。しかしそこは「マテシバシ(待て、しばし)!」。その美しさの裏には、恐ろしい武器が隠されていることを覚えておきましょう。

ミノカサゴよりも強い毒針を持つ魚



魚釣り、特に船の上からタイラバや一つテンヤで海底を狙う釣法では、ミノカサゴ以外にも恐ろしい毒針を持つ魚が釣れることがあります。

例えばイズカサゴ(オニカサゴ)という魚は、ミノカサゴと同じぐらい強力な毒を持っていますが、それだけでなく、背ビレ、尻ビレ、胸ビレ、さらには顔の周りと、全身に毒針を持っています。しかも厄介なことに、見た目がウッカリカサゴとよく似ており、何も知らずに触ってしまうと「ウッカリ」では済まされないほど、痛い目を見ることになります。

またオニオコゼという魚は、毒針は背ビレだけですが、その毒は刺された患部が激しく痺れ、発熱や嘔吐、呼吸困難を引き起こすほどに強力です。さらに沖縄などに生息するオニダルマオコゼと呼ばれる種類は、非常に危険な魚類として知られ、刺された痛みでショック死したり、患部が壊死して腐ってしまうなどの、猛毒を持っています。

このような危険な魚に刺されないようにするためには「待て、しばし!」。知らない魚が釣れたときは不用意に触らないようにし、船頭さんや近くの釣り人に聞くようにしましょう。

毒針を切れば美味しいお魚

ところで、ミノカサゴやイズカサゴ、オニオコゼなどの毒を持つ魚は、総じてとても美味しいお魚だったりします。

「毒針は恐いが食べてみたい」という方は、刺されないように十分注意しながら、毒針の付いたヒレを切り落として持ち帰りましょう。



なお、切り取ったヒレは毒針が付いたままなので、船上や釣り場に放置せず、確実に海に捨てるようにしましょう。



【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。
 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「チカト商会」https://chikatoshoukai.com/
Twitter:@rakurou21

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