東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.92- まるで個性のバーゲンセール 『ホウボウのお吸い物』

美しくも美味しい高級魚……どこかクリエイティブな感覚を刺激するような、こんな魚が釣れたら楽しいですね。初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法を、アウトドアライター・東雲輝之さんに教わる連載です。

前回(vol.91)のマトウダイのように、その姿や体の模様が個性的な魚は、釣り人の間で敬遠されることがあります。しかし中には、ビックリするような個性だらけの見た目なのに、釣れると喜ばれる高級魚もいます。この「ホウボウ」は、そんな不思議なお魚です。

『ホウボウ』ってどんな魚?



ホウボウは、北海道南部以南から、渤海、黄海、東シナ海、南シナ海にかけて分布する海水魚です。大きさは、20cm程度のものをよく見かけますが、年を重ねるごとにどんどん大きくなり、成魚(27cm)になるのに4年ほどかかります。それ以上生きた個体は、大きいもので40~50cmを超える大型になります。

その見た目の特徴は……何と言ったらよいか、あらゆる面が特徴的な魚です。

驚きの特徴その1:美しい羽が生えている



ホウボウは、まるで蝶の羽のような胸ビレを持っており、釣り上げるとエメラルドを散りばめたような美しい胸ビレを拝むことができます。

またホウボウは泳ぐとき、この羽をパラシュートのように広げて海底に着陸するという、面白い習性を持っています。

驚きの特徴その2:脚が生えている



もう1つの特徴が、魚のくせに“脚”があることです。正しくは胸ビレの軟条(ひれすじ)と呼ばれる部位なのですが、ホウボウは左右の6本の脚を「にょぎにょぎ」と動かし、まるで昆虫のように海底を歩くことができます。

ちなみにホウボウを真正面から見ると、頭が大きいため、まるで「魚の顔をしたカニ」のような、面白い見た目になります。

驚きの特徴その3:「ボォボォ」と鳴き声を上げる

ホウボウは、釣れると「ボォボォ」と鳴き声を上げます。この音は、ホウボウの発達した「浮袋」に空気が入って鳴る音なのですが、まるでカエルのような鳴き声を上げるため、初めて聞く人は驚いてしまうはずです。この「ボォボォ」という鳴き声は、「ホウボウ」の語源の1つとされています。

どこで釣れるの?



ホウボウは、水深100~200mを中心に、20m程度の比較的浅い海底から、600mを超える深海にまで生息しています。よって、まれに堤防から釣れることもありますが、基本的には船の上から釣る魚です。

どうやって釣るの?

ホウボウは、脚のような軟条を器用に使って、海底の砂泥に潜っている小さなエビやカニ、ゴカイなどを捕食します。よって釣り方は、船の上からオモリの付いた仕掛けを落とす「胴付き仕掛け」が向いています。



ホウボウは、針に付いた餌をくわえると、その場でむしゃむしゃと食べる“居食い”をします。そのため竿先には反応が出にくく、「なんかいつの間にかホウボウが針に掛かっていた」といった釣れ方がよくあります。針に掛かった後もあまり強く引いてこないので、あせらずゆっくり糸を巻いて釣り上げましょう。

美味しい魚……でも食べるところは少なめ



その見た目の異様さと鳴き声から、初めてホウボウを見た人は「ぎょっ!」とするかもしれません。しかしホウボウは、もともとマダイに匹敵するほどの高級魚です。江戸時代から上流階級の食す魚として知られ、祝いの席でも出されるめでたい魚だったりします。

そんなホウボウは、刺身で食べると絶品の魚です。コリコリとした薄ピンクの身は、噛みしめるほどに旨味が染み出し、あらゆる魚の中でも上位級の味わいがあります。



しかしホウボウは、頭が大きく歩留まりが悪いので、よく釣れる20cmほどのサイズでは、お刺身にするには少々寂しい大きさです。このサイズのホウボウでも満足できるオススメの料理といえば、吸い物です。

出汁は煮立てず、ゆっくりと熱を通す

ホウボウは身だけではなく、頭や骨から上質な旨味が出ます。そこで、鍋に水と酒、ホウボウのアラを入れて、出汁を取りましょう。



魚から出汁を取るときは、絶対に煮立たせてはいけません。沸騰しない程度の温度でゆっくりと加熱すると、臭みやエグ味がアクになって浮いてくるので、丁寧に取り除きましょう。もし煮立たせてしまうと、アクが再び溶け込んでしまい、生臭い出汁になってしまいます。



ホウボウのアラをじっくり煮出したら、塩と薄口醤油で味付けをしましょう。

身は出汁で熱する

出汁の用意ができたら、三枚におろしたホウボウの身から腹骨をすき取り、軽く飾り包丁を入れてお椀の中に巻いて置きます。 この上に、スダチを少し絞って加え、出汁をたっぷりとかけてフタをします。



出汁の熱でほんのりと熱が通ったホウボウの身は、独特の旨味に加え、ホロホロとした淡い食感になります。



具材がホウボウだけでは寂しいのであれば、三つ葉やお麩を入れても美味しくなります。吸い口はスダチ以外にも、ユズやカボスなどを使うと、また違った風味が楽しめます。


【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。
 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「チカト商会」https://chikatoshoukai.com/
Twitter:@rakurou21

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