東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.98- お困りのエサ盗りを齧り尽くす!『スズメダイのあぶってかも』

本来お呼びでない小さな魚も、物は考えよう。実は簡単調理でおいしく食べられるようですよ! 初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法を、アウトドアライター・東雲輝之さんに教わる連載です。

撒き餌を使った釣りにおいて、避けては通れないのが“エサ盗り”です。エサ盗りとは「スズメダイ」などの小魚たちの総称で、こいつらが湧いてくると先に餌をほとんど食べられてしまうため、本命の魚を引き寄せることができません。エサ盗りたちに悪意があるわけではないのですが、高いお金を出して用意した撒き餌を「わちゃわちゃ」と食べ尽くすスズメダイの姿は、なんとも小憎らしいものです。……う~む、本命の魚が釣れないのなら、食べちゃいましょう、スズメダイを。

『スズメダイ』ってどんな魚?

スズメダイは、中国から朝鮮半島、日本では東北以南沿岸部に生息する、スズメダイ科の海水魚です。体長はおよそ12cm程度と小型で、スズメのように小さく数百匹単位の群れを作る習性などから「スズメダイ」の名が付けられたとされています。低水温でも生きられ、日本海で越冬もできるスズメダイ科唯一の種です。



釣り人の間では「エサ盗り」として嫌がられるスズメダイですが、海中では背ビレの付け根に“真珠”のように白く輝く白点を持っていることや、コハク色の綺麗な体色をしていることなどから、観賞魚として人気があります。

どこで釣れるの?



スズメダイは岩礁域に生息する魚なので、磯には必ずといっていいほど見つけることができます。通常、小サバや小イサキといった他のエサ盗りたちは水温が低くなると沖へ逃げていくのですが、スズメダイは低水温に強いため、冬場でも湧いて出てきます。そのため、スズメダイが「どこで釣れるか」よりも「どこなら釣れないか」のほうに、頭を悩まされます。

どうやって釣るの?



釣りたくなくても釣れてしまうスズメダイですが、あえて大量に釣ろうと思うのであれば、メジナ釣り用の小さな鉤(はり)と細い糸を使った仕掛けを用いましょう。

釣り方は単純に、スズメダイが群れている場所に餌を落とすだけです。食欲スイッチの入ったスズメダイは、餌を撒くと「我先に!」と言わんばかりの勢いで水面に上がってきます。このとき海面をよく観察すると、スズメダイの白点部分がキラキラと見えるので、そこに付け餌を投入します。



知られざる珍味、“あぶってかも”



何も知らない人から見ると、黙々とスズメダイを釣り上げている姿は珍妙に思えるかもしれませんが、実はこのスズメダイは意外と美味しいお魚だったりします。

食通の中で珍味として名高いスズメダイ料理が、福岡県・博多の郷土料理「あぶってかも」です。作り方はいたってシンプル。新鮮なスズメダイに塩をたっぷりとまぶして一日置き、これを魚焼き器に入れ、弱火で表面がカリカリになるまで焼くだけです。初めてこの料理を見た人は驚かれるはずですが、なんとウロコも内臓も取らないまま丸焼きにします。

食べ方も単純で、熱々をわしづかみにして、背側の肉厚な部分からウロコと骨ごと「がにがに」と齧りつきます。「炙って、噛もう!」が語源とされる「あぶってかも」は、その名の通り、噛めば噛むほど旨味が染み出します。特に産卵期前の春から初夏にとれたスズメダイは、皮目に脂がパンパンに乗っており、ウロコごとほおばると「ちゅんっ!」と、ねっとりとした脂が染み出します。



骨まで食べるときは、必ずよく噛むようにしましょう。スズメダイは別名「お仙(オセン)殺し」と呼ばれており、「その昔、お仙という女性がスズメダイの骨がのどに刺さって死んでしまった」という逸話が残されているほど骨が硬い魚です。

「あぶってかも」は骨を残してしまう人も多いのですが、せっかくなら本命の魚が釣れなかったストレスを顎の力に代えて、スズメダイを丸ごと一匹食べてしまいましょう。


【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。
 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「チカト商会」https://chikatoshoukai.com/
Twitter:@rakurou21

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