東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.100(最終回)- 初めて釣ったアジの味

初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法を、アウトドアライター・東雲輝之さんに教えていただくこの連載。2年にわたりご好評をいただき、ありがとうございました。今回で最終回となりますが、最後は、東雲さんが釣りの世界にはまるきっかけとなった“初心者の頃”のお話。未知の扉を開くきっかけは、どこにあるかわかりません。

私が魚釣りを始めたのは22歳の頃。初めて釣った魚は1匹のアジでした。あの日からおよそ十数年経ち、色々な魚を釣って料理をするようになりましたが、未だに私は「食の楽しさ」を教えてくれた、その最初のアジの味を覚えています。

まったく釣りにならなかった初めての釣り

釣りを始めるきっかけとなったのは、何気なく立ち寄った釣具屋さんで釣り具を“買わされた”ことでした。今考えると初心者向けにしては高価すぎる道具だったのですが、店員さんから「良い道具を使えば初心者でも大物が釣れるよ!」とノセられて、数万円近い釣り具一式を買わされたわけです。

当然ながら、釣りのことを何も知らない初心者が道具だけ良いものをそろえても、簡単に魚が釣れるわけはありません。初めての釣行では、鉤(はり)に糸を結ぶのに1時間もかかり、1投目で結び目がほどけて仕掛けが遥か彼方へ飛んで行ってしまい、さらにリールから糸が飛び出してこんがらがって、とてもまともに釣りをするどころではありませんでした。

2度目の釣行は、ある程度練習したので仕掛け作りはスムーズだったものの、今度は魚の反応がまったくわかりません。ウキが揺れてはいるものの、それが魚のアタリなのか波で揺れているだけなのかわからず、結局1匹も魚を釣ることなく撤収しました。もうこの時点で「釣りなんてやめたい」と思っていたのですが、釣り具の出費があまりにも悔しいので、簡単にあきらめるわけにはいきませんでした。

3度目の釣行は冬の風が強く冷たく、「なんでこんな苦行をしているんだろう……」と寒さに震えながら後悔していました。そして諦めて帰ろうかと思ったその矢先に釣れたのが、20cm程の小アジでした。

不気味で怖かった、初めての魚料理



初めての釣果に喜んで、持ち帰ったはいいものの、今度は台所で頭を抱えることになります。

大学時代までの私は、まったく料理をしたことがありませんでした。一応、包丁はありましたが、レトルトパウチを切るぐらいでしか使ったことがありません。当然ながら魚を捌(さば)いたことなど無かったので、小アジを前に包丁を持って四苦八苦です。

デロリと流れ出る内臓と血は気味が悪く、切れ味の悪い包丁は身を切るごとに「ニチェニチェ」と音を立てます。アジの真ん丸の目は何かを訴えかけてくるように不気味なので、ティッシュを頭に被せて調理しました。

初めて釣ったアジの味は、「味」を教えてくれた

そんなこんなで作ったアジの刺身は、小骨が混じり、身はグズグズで生臭く、ところどころにウロコが付いた、とても「料理」とは言えない酷い出来です。しかし私にはその刺身が、なぜだか無性に「美味しい」と感じられました。

その頃の私は食に対してまったく興味がなく、「腹が減ったら胃に何かを入れる」ぐらいにしか考えていませんでした。しかし、日常の中で食べているものすらよくわかっていない、そんな自分にも、この刺身は確実に『自分で釣ったアジの味』がしました。その味が「美味しい・まずい」ではなく、苦労して魚を釣り、四苦八苦しながら捌いた思い出によって、“味わうこと”に気付かされたのです。

新しい食の世界への入口『キャッチ&イート』



初めてアジを釣った日から、およそ12年が経ち、これまで色々な魚を釣って食べてきました。その中で「釣った魚をもっと楽しみたい」という思いから、包丁の扱い方や調理の仕方を学び、今ではカモやイノシシ、シカといった動物まで解体して料理できるようになりました。

私のこのような食への興味は、あの日『食材を自分の手で手に入れたこと』が、『味わうことを知る』へつながり、そこから広がっていったといえます。もちろん釣りだけが食への入口になるわけではありませんが、『捕って食べる(キャッチ&イート)』への挑戦は、これまでとは違った食や料理の世界を、あなたにももたらしてくれることでしょう。



【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、今回をもって連載終了となります。長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。
 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「チカト商会」https://chikatoshoukai.com/
Twitter:@rakurou21

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