東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.3- 捨てる釣り人と笑う魚『ボラの三合飯』

おいしい魚の条件のひとつは鮮度です。何より新鮮なのは、獲れたてピチピチの魚。自分で釣り上げた魚以上に新鮮なものはありません。そこで初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法について教えていただく連載がスタートしました。指南役は、狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をテーマに、幅広くご活躍中のアウトドアライター・東雲輝之さんです。

防波堤を散歩していると、長~い竿を持ってヒシャクで海にエサを撒いている「ウキ釣り師」に出合うことがあります。
 もし、彼らの竿が大きくしなっているのに渋い顔をしているようであれば、おそらく上がってくるのは大きなボラ。ウキ釣り師たちは釣りあげたボラから針を外すと、たいてい海に蹴落そうとするので、「捨てるぐらいならその魚を譲ってくれないか?」と尋ねてみましょう。
「こんな魚を食べるなんて、あなたは変わった人だね」と言われるでしょうが、気にしてはいけません。しめしめ…今日は大ごちそうになりそうです。

『ボラ』ってどんな魚?

世間知らずの女の子を表す稚魚「オボコ」、若くて気風の良い男性を表す若魚「イナ」、そして終着点(とどのつまり)を表す老魚「トド」といった言葉にも残るように、ボラは昔から日本人の暮らしに深く根付いている魚です。

しかし高度成長期、工場の汚水と生活排水にまみれた川や海で「バッシャン!バッシャン!」と跳ね回る姿が印象的だったのか、ここ十数年でその評価は地に落ち、今ではすっかり「汚い魚」と嫌がられるようになりました。

もちろん現代では川も海も綺麗になり、臭いのあるボラなんて滅多に出合うことはありませんので、ご安心ください。

どこで釣れるの?

海水にも淡水にも住むことができる生命力あふれるボラは、日本では北海道以南ならたいていの港で釣ることができます。特に東京湾や大阪湾、伊勢湾といった湾口、瀬戸内海など流れの緩い海域では、海に餌を撒くと何十匹もの大群で押し寄せてくるので、海上からでもどこにいるかよくわかります。

どうやって釣るの?


エサ撒くと目の前まで近寄ってくるボラですが、彼らを釣りあげるにはかなりのテクニックが必要です。

まずボラは非常に目が良い魚なので、針は小指の先よりも小さな物を使わなければなりません。また50cmを超えるような大型のボラになると、2000円程度で買える釣り竿セットでは折れてしまうので、「磯竿」と呼ばれる1万円以上する長い竿が必要になります。

小さな針を結んだり長い竿を扱ったりするのは、初心者にはかなり難しいテクニックです。そこでボラ初心者はまず「釣り師を釣り」ましょう。

冒頭でもお話した通り、ボラは釣り人の間でなぜか嫌われている魚です。そこで防波堤のカモメに交じって釣り師を観察し、釣りあがったらおもむろに交渉に打って出ましょう。「意地汚い」なんて思ってはいけません。缶コーヒー1本でも差し出せば、釣り師も快くボラを譲ります。これは“Win-Win”の取引なのです。

ボラの下処理

ボラは生息環境によっては確かに臭くなる魚ですが、しっかりと血抜きを行えば臭みはほとんど解消されます。またウロコが大きく固い魚なので、釣り場できっちり処理しましょう。キッチンでウロコを引くとあちこちに散らばって掃除が大変です。

1.釣りあげたら頭を叩いて気絶させる
2.エラぶたからナイフを入れてエラを切る
3.海水に付けながらよく血抜きをする
4.できればウロコと頭、内臓を取って海水でよく洗う

赤身と白見の中間、ロゼ身

マグロのようにスタミナのある魚は身が赤くなります。対してヒラメやマダイのように瞬発力がある魚は身が白くなります。ボラは不思議なことに、「赤身」の美味さと「白身」の歯ごたえが上手くミックスされた中間の身質、いうなれば「ロゼ身」です。

ボラは万能に扱える身質なので料理のレパートリーは驚くほど広く、刺身はもちろん、スズキのように氷水でしめて洗いに、マダイのように皮付きのままあぶって松皮造り、切り身に西京味噌を塗って西京漬け、みりんに漬けてみりん漬け、さらに骨からは良い出汁が出ます。また内臓からはコリコリとした食感が珍味の「へそ(胃袋)」、卵巣は塩漬けにしてカラスミになります。




あまりの美味さに「三合飯」(三合ごはんが食べられる)と呼ばれていたボラ。近年では「ボラの名誉を回復しよう!」という新進気鋭な動きもあり、漁港が近いスーパーなどにはたびたび鮮魚が出回っているようです。その魅力を知る一部の釣り師にとってボラのルネッサンスは大変喜ばしいことではありますが、かつての友が遠くに行ってしまうような少し寂しい気持ちにもなります。




【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。

 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「孤独のジビエ」http://kodokunogibier.blog.fc2.com/
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