東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.31- 潜って捕まえろ!『ハリセンボン汁』

おいしい魚の条件のひとつは鮮度です。何より新鮮なのは、獲れたてピチピチの魚。自分で釣り上げた魚以上に新鮮なものはありません。そこで初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法について連載でお届けします。指南役は、狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をテーマに、幅広くご活躍中のアウトドアライター・東雲輝之さんです。

とてつもない猛暑にうだる毎日。一時の涼を求めてやってきたはずの釣りも、べったりとした潮風は生ぬるく、とても釣り糸をじっと垂らし続ける気分にはなりません。それでは、いっそのこと海に飛び込んで魚を捕るのはいかがでしょうか? もちろん、泳ぐ魚を人間の手で捕まえるのは容易なことではありません。しかし「ハリセンボン」であれば、誰でも簡単に捕まえることができます。しかも食べれば意外と美味しいお魚だったりします。

『ハリセンボン』ってどんな魚?

ハリセンボンは世界中の熱帯や温帯の暖かな海に広く分布しており、日本では特に太平洋側に多く生息しています。

その名の通り、体中に鋭いトゲが生えており、外敵から攻撃を受けそうになると体を膨らませて身を守ります。その姿がユニークなため、身を取り出した後に風船もしくはもみがらなどで形を整え乾燥させてから仕上げにニスを塗った“ふぐちょうちん”が、お土産などでよく売られています。

どこで捕れるの?

ハリセンボンは、サンゴが群生するような岩陰で、ぼーっとしていることの多い魚なので、マスクとシュノーケルを使って海に潜りながら探してみると簡単に見つけることができます。

また、ハリセンボンは水深の浅い場所にもいるので、泳げない人やシュノーケリングに慣れていない人は、腰ぐらいの深さのタイドプール(潮だまり)に頭だけを浸けて、海底に立った状態で探してみるのも良いでしょう。

どうやって捕るの?

海に潜ったまま魚を捕る方法は、“やす”と呼ばれる、先端が三つ叉になった道具を使うのが一般的です。しかしハリセンボンをやすで突くと怒って“トゲトゲ”になってしまい、やすの先から外すときに痛い思いをします。そこで、イカリ針(キツネ針)と呼ばれる針を使って、魚体を引っ掛けて捕る「しゃくり釣り」がおすすめです。

しゃくり釣りの仕掛けは、イカリ針を2つ重ねた状態にして竿や棒の先につなぎます。針を結ぶ糸の太さは適当でよいのですが、魚が暴れたときの衝撃で切れないように、間に輪ゴムを入れておくと良いでしょう。

ハリセンボンの捕り方は、単純に、泳いでいるハリセンボンに向かって竿先を押し当てて、針を引っ掛けるだけです。普通の魚の場合は、竿先を向けると驚いて素早く逃げていくものなのですが、ハリセンボンの場合は自分のトゲに“絶対的な自信”があるようで、竿先を向けても逃げようとしません。よって、誰でも簡単に針で引っ掛けて捕まえることができるのです。




“吊るし切り”を知れば簡単に調理できる

「ハリセンボンを食べる」と聞くと驚かれるかもしれませんが、沖縄でハリセンボンは「アバサー」という名で親しまれています。その身はフグとカワハギを足したような濃厚な旨味があり、とても美味しい魚です。またハリセンボンは、一応フグの仲間ですが、身には毒が無いのでフグ調理師の資格が無くても調理することができます。

しかしなにはともあれ、ハリセンボンを食べるには、その鋭いトゲをどうにかしないといけません。普通の魚のように捌こうと思ってもトゲが固くて包丁が通らず、さらに手にトゲが刺さってしまい痛い思いをします。そこでハリセンボンを処理する時は、吊るし切りと呼ばれる特殊な方法を行います。

まず、ハリセンボンの唇の付け根あたりに包丁かハサミで切れ込みを入れます。ハリセンボンは体中にトゲが生えていますが、唇のところだけは生えていないので、包丁を通すことができます。

次に、収納などで使う“S字フック”のような金具を唇の下に通して、キッチンの棚などに引っ掛けてぶら下げます。魚体が空中に吊るされた状態になったら、唇の切れ込みから皮を下に向けて強く引っ張り、包丁で少しずつ皮を剥ぎ取っていきましょう。ハリセンボンのトゲはすべて皮に付いているので、この皮ごと剥いでしまえばトゲを除去することができます。


皮と内臓を処理したハリセンボンは、酷く痩せているように見えますが、頭の部分と尻尾の部分には引き締まった身が付いています。この肉を削いで、刺身やから揚げにするのもいいですが、ハリセンボン料理の定番と言えば、なんといっても、沖縄の「アバサー汁」のような味噌汁です。

皮を剥いだハリセンボンは、骨ごとぶつ切りにして水から煮出します。ぐつぐつ煮立たせると汁が濁って雑味がでるので、弱火で調理しましょう。




十分に出汁が出たら、味噌を薄く溶いて味付けをしましょう。このとき、ハリセンボンの肝を包丁で細かく叩いて浮かせると、汁に濃厚な旨味が出ます。島豆腐を一口大に切って入れると、より本格的な沖縄料理の味に近づきます。また、大きく発達した浮袋も独特な食感で美味しく食べられますが、過去に卵巣に毒を持った個体が見つかったこともあるため、内臓の判別に自身が無い人は、身だけを食べるようにしましょう。


 

【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。

 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「孤独のジビエ」http://kodokunogibier.blog.fc2.com/
Twitter:@rakurou21