東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.32- アンダー・ウォーターへようこそ!『イシダイのマース煮』

おいしい魚の条件のひとつは鮮度です。何より新鮮なのは、獲れたてピチピチの魚。自分で釣り上げた魚以上に新鮮なものはありません。そこで初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法について連載でお届けします。指南役は、狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をテーマに、幅広くご活躍中のアウトドアライター・東雲輝之さんです。

海に潜ってヤスで魚を直接捕まえる「スピアーフィッシング」は、一歩間違えれば死の危険もあるアウトドアです。しかし“海中”という魚たちと同じ土俵の中で獲物を仕留めるスピアーフィッシングは、 釣りとはまったく違う楽しさと興奮があり、しかも普通の釣りでは滅多にお目にかかれない高級魚「イシダイ」を簡単に仕留めることもできます。

『イシダイ』ってどんな魚?

イシダイは、全長約40cm、時には70cm以上にも成長する大型の魚で、体の横に4~7本入る黒い線が特徴です。しかし、この模様は年齢を重ねるほど薄くなっていき、老成したオスは口の周りだけ黒くなるため、「クチグロ」と呼ばれることもあります。

性格は「磯の王者」と呼ばれるように怖いもの知らずで、スキューバダイビングをしていても、ダイバーを怖がらずに近寄ってくることがよくあります。スピアーフィッシングでは、その好奇心旺盛な性格を逆手にとり、興味本位で近づいてきたところを仕留めます。

どんな道具が必要なの?

スピアーフィッシングは、最低限マスクと魚を突く“ヤス”と呼ばれる道具があればできます。しかし、海底の世界は危険がいっぱい。安全に楽しむためには様々なアイテムを使いこなさなくてはなりません。

そこでスピアーフィッシングに必要なアイテムとなるのが、(1)ヤス、(2)マスク・シュノーケル・曇り止め、(3)フィン、(4)ウェットスーツ・ウェイトベルト、(5)エラ通し、(6)ダイバーウォッチです。


(1)ヤス

ゴムを引いた弾力を使って魚を突くヤスは、釣具屋さんなどで竹製やアルミ製のものが1000円前後ぐらいで売られています。しかしそれらの安価な製品では、小魚は突けても、大物になると固いウロコに弾かれてしまうため、やはり1~2万円前後のグラスファイバーやカーボンファイバー製の、できるだけ品質の良い物を用意しましょう。
 ヤス先は大きく6種類あります。それぞれ狙う獲物に応じて最適なタイプは異なりますが、イシダイやスズキ、クエ、カンパチといった大物を突く場合は「チョッキ」と呼ばれるタイプが人気です。




(2)マスク・シュノーケル・曇り止め

水中の様子を観察するためのマスクは、ゴーグルタイプが一般的です。しかし近年は、鼻からも呼吸ができるフルフェイスタイプも登場しており、口呼吸や耳抜き(水圧で耳がツーンと痛くなる現象を抑えるテクニック)が苦手な人に人気があります。また水中で視界を良くするために、マスクには曇り止めを塗っておきましょう。

頭を水中につけたまま呼吸をするシュノーケルは、強く息を吐くと排水弁から溜まった水を排除できるタイプがオススメです。




(3)フィン
泳ぐスピードを上げるためのフィン(足ヒレ)には、ロングブレードとショートブレードの2種類があります。ベテランのスピアーフィッシャーはロングブレードを使いますが、初心者は扱いが簡単なショートブレードがオススメです。




(4)ウェットスーツ・ウェイトベルト

暖かい海に潜るスピアーフィッシャーマンの中には、ウェットスーツを着ない人も多いのですが、ウェットスーツはクラゲなどの危険生物や、岩場などから身を守るためにも重要なので、必ず着用するようにしましょう。

ウェイトベルトは、ウェットスーツの浮力を相殺し水中にもぐりやすくするために体に巻くオモリです。もし自力で陸まで泳げなくなった場合は、このオモリを捨てることで、ウェットスーツの浮力を確保し、海面を漂うことができます。


(5)エラ通し

エラ通しは、捕まえた魚を体にくくり付けておくための道具です。「魚を腰にぶら下げたまま泳ぐのは邪魔だ!」と思われる方は、“フローター”と呼ばれる浮き輪のような道具に魚をくくり付けておきましょう。フローターにペットボトルをくくり付けておくと、水中で休憩しながら水分補給をすることもできます。




(6)ダイバーウォッチ

スピアーフィッシングに限らず海中では、原則としてバディ(相方)と行動します。また、万が一はぐれた場合に備えて「何時何分に、この場所に集合しよう」と打ち合わせをしておき、ダイバーウォッチにはアラームを設定しておきます。もしバディがその時間になっても姿を現さない場合は、海上保安庁に捜索を依頼することになっています。


どうやって捕るの?

餌を使って捕獲する釣りと違い、スピアーフィッシングは魚たちと同じ目線で勝負するスポーツです。よって攻略方法は魚の種類によってまったく違いますが、イシダイのような好奇心旺盛な魚に対しては“待ち伏せ作戦”が有効です。

待ち伏せ作戦では、海上でヤスのゴムを引いて潜り、海底でヤスを前方に構えたまま、息が続く限りジッと待ちます。このとき魚たちは、初めは人間の姿に驚いて逃げていきますが、しばらくすると様子を見に戻ってきます。中でもイシダイは、興味津々で目の前まで近寄ってくるので、タイミングよくヤスを発射して突きましょう。

うまく突けたら、ゴムを握ったまま浮上して、ヤスを手繰り寄せて回収しましょう。突かれたイシダイは、ものすごい力で逃げようとするので、素手かナイフで魚のエラを切って締めます。




調味料は“海水”

超高級魚として料亭に直接卸されることが多いイシダイは、マダイよりも身がギュッと締まり、上質な旨味があります。皮にも旨味がありますが、突き立てのイシダイの皮はとても固いので、表面をザっと炙って焼霜造りにするのがオススメです。

しかし、イシダイの本当の魅力は身よりも“アラ”にあります。イシダイの骨と身の間には非常に濃い旨味が詰まっているため、刺身にした後に残った背骨や頭、カマといった部分も余すところなくいただきましょう。

イシダイの旨味を引き出すのに最適な料理は、海水だけで作る「マース煮(潮煮)」です。作り方は単純で、綺麗な海水を鍋に入れて、イシダイのアラを煮るだけです。海水だけで煮ると塩辛そうに思えますが、魚のアラから十分に水分が出て薄められるので、水を足す必要はありません。

砂浜で火を焚いて海水だけで調理するイシダイのマース煮は、ワイルドな雰囲気もあって、料亭で食べる味とはまた違った美味しさを感じられます。

 

【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。

 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「孤独のジビエ」http://kodokunogibier.blog.fc2.com/
Twitter:@rakurou21

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