東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.36- “ねこまたぎ”か、“さらねぶり“か。『アイゴの三夜干し』

おいしい魚の条件のひとつは鮮度です。何より新鮮なのは、獲れたてピチピチの魚。自分で釣り上げた魚以上に新鮮なものはありません。そこで初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法について連載でお届けします。指南役は、狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をテーマに、幅広くご活躍中のアウトドアライター・東雲輝之さんです。

釣りの世界には「猫でさえも無視してまたいで通るぐらいマズイ」という意味で、“ねこまたぎ”と呼ばれる魚がいます。中でも「アイゴ」は、皮や内臓に強い刺激臭があり、さらにヒレには毒腺を持つため、ねこまたぎの代表として釣りの世界では嫌われています。しかしアイゴが嫌われているのは、おそらく料理の仕方を知らない釣り人が多いからでしょう。アイゴは正しく下処理をして、ひと手間加えて料理すれば、“アイゴのさらねぶり”と呼ばれるほどの逸品になるのです。

『アイゴ』ってどんな魚?

アイゴは体長30cmほどで、表面はザラザラした細かなウロコで覆われており、基本は岩肌のような色合いに白い斑点が散りばめられたような体色ですが、色や白色班はその時の状態によって出たり消えたりもします。

本来、西太平洋の暖かい海に生息する魚なので、かつては沖縄や九州・四国で釣れる“南の魚”というイメージが強かったアイゴですが、近年は海水温の上昇などが影響して生息域が北方に延びており、ここ数年では東京湾や東北地方など、これまで見られなかった海域にまで姿を見せるようになってきています。

どうやって釣るの?

アイゴは雑食性ですが主に岩場にくっついている海藻類を食べる魚なので、磯や防波堤などで釣ることができます。

仕掛けはメジナを釣る“フカセ釣り”が基本になりますが、波風が少ない穏やかな防波堤で釣りをするのであれば、棒状のウキを使った“ウキ釣り”がオススメです。

ウキ釣りの面白さは、なんといってもウキが海中に「ひゅっ!」と吸い込まれる瞬間です。視覚的に魚がかかったことがわかるので、その直後に魚の引きで竿が「ズシン!」としなる興奮も合わさり、ウキ釣りは釣りの世界では非常に人気の高い釣法です。




怖がらずに、勇気を持ってつかもう

アイゴが釣れて厄介とされるのが「毒針」です。アイゴの背ビレ、腹ビレ、尻ビレには、毒を持ったトゲがあり、このトゲに刺されると「ズキ! ズキ!」と激しい痛みが数時間から数週間続きます。





アイゴに刺されてしまう一番の原因は、おっかなびっくりつかもうとすることです。毒があることに慎重になりすぎて、恐る恐る尾ビレをつまもうとすると、アイゴが急に「ばい~ん!」と跳ねて、指や腕を刺されてしまう事故が往々にして起こります。

そこでアイゴをつかむときは、まず足で尾ビレを踏んで跳ねないようにしましょう。魚は尾ビレで地面を叩いてジャンプすることはできますが、上体を起こすことはできないので、尾ビレさえ押さえておけば跳ねる心配はありません。





アイゴの動きを抑えたら、次にアイゴの頭を正面からガッチリとつかみましょう。アイゴは体中にトゲがあるのでうまくつかむところがなさそうですが、頭の部分にはトゲが生えていません。よって、恐る恐る手を伸ばして変な所をつまむより、勇気を出して思いっ切り頭をつかんだほうが安全なのです。直接、魚をつかむのが苦手な人は、『メゴチバサミ』と呼ばれる、焼き肉のトングのような道具を使って、しっかりと頭を固定しましょう。





頭をつかんで持てば、もう足を離しても安全です。後はハサミでトゲを1本ずつ切っていきましょう。ただしこのとき、背ビレの最前に1本だけ逆向きに出た“隠し針”があるので、忘れずに注意して切り落としましょう。





毒針をすべて切り落としたら、その場で腹を裂いて内臓を取り出します。アイゴの消化器官には食べた海藻を分解する酵素が含まれており、アイゴが死んでしばらくたつと、この酵素が内臓から漏れ出して強いアンモニア臭を発します。よってアイゴを釣り上げたらすぐに内臓を取り出すことが、美味しく料理する最大のコツになります。

熟成させて旨味を引き出そう

毒針と内臓を処理したアイゴは、後は他の魚とまったく同じです。まずは三枚におろしてお刺身でいただきましょう。





アイゴの身はヒラメのように澄んだ白身で、味わいとしてはマダイに似ています。これだけでも十分美味しいのですが、旨味としては淡白過ぎるので、もし「毒針のリスクを冒したのに少々物足りない味だ!」と思われた方は“熟成”にチャレンジしてみましょう。
 

まず開いたアイゴを立て塩(塩分濃度3%程度の塩水)に浸けて30分ほど置き、余分な水分と一緒に臭みを落とします。クッキングペーパーで身をよく拭いたら、ラップで包んで、そのまま冷蔵庫で2~3日寝かせましょう。寝かせている最中は、できれば毎日、表面の水分を拭き取り、魚体の表面に余分な水分が残らないようにしてください。





熟成させたアイゴの身は、普通のお刺身とは比べ物にならないほどの旨味を持ちます。その味わいは、マダイよりはるかに豊潤で香り高く、旨味は「臭くないクサヤ」のように濃厚で、さらに食感はキンメダイのような繊細さを感じます。

アイゴが沢山とれる瀬戸内側の地域では、アイゴ料理は「盛り付けたお皿を舐め回したくなるほど美味しい」という意味で「さらねぶり」と呼ばれることがあります。アイゴを「ねこまたぎ」と呼んでバカにするか、「さらねぶり」と呼んで美味しく食べるかは、料理の仕方一つで変わってくるのです。


 

【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。

 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「孤独のジビエ」http://kodokunogibier.blog.fc2.com/
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