東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.42- 知らないと損する美味しい魚『ヒイラギの刺身』

おいしい魚の条件のひとつは鮮度です。何より新鮮なのは、獲れたてピチピチの魚。自分で釣り上げた魚以上に新鮮なものはありません。そこで初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法について連載でお届けします。指南役は、狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をテーマに、幅広くご活躍中のアウトドアライター・東雲輝之さんです。

子どもたちを海釣りに連れていくと、よく「この魚、なぁに?」と聞かれます。アジやイワシかと思って見てみると、竿にぶら下がっているのは、体からベトベトした粘液をしたたらせる怪しい小魚。しかも妙ちきりんな顔をして「ギィギィ」と鳴き声を上げています。ここで、この魚のことを知らない大人なら、「そんなヘンテコな魚は捨ててきなさい」と言うでしょう。しかし、この魚が「ヒイラギ」だと知っている大人なら、子どもたちにこう言うはずです。「もっと釣ってきなさい。今日は美味しいお刺身が食べられるよ!」

『ヒイラギ』ってどんな魚?

ヒイラギは、東アジアの暖かい海に広く生息している海水魚で、日本では本州中部以南の西日本から沖縄本島にかけて、流れの緩やかな内湾や河口付近で多く見かけることができます。体長は15cmほどにもなりますが、普通は10cm前後のものがほとんどです。泳いでいるときの姿は変哲も無い小魚なのですが、釣り上げると、への字に曲げていた口をニュッと伸ばし、「ギィギィ」と鳴き声を上げるという、変わった習性を持っています。その、“口をとんがらせて釣り人に文句を言っている”ような様子から愛称が多く、「ギギ」や「グイグイ」、「ニロギ」、「ギュウギュウ」といった、たくさんの地方名を持っています。

どうやって釣るの?

ヒイラギは、港湾内や、波のない堤防など、ファミリーフィッシングに最適な場所に、群れて棲んでいます。また、餌はアミエビから虫まで何でも食べ、しかもほとんど警戒心を持たない呑気な性格なので、子どもたちでも簡単に釣ることができます。

「釣った」よりも「釣れた」ということの多いヒイラギですが、もし専門に狙いたいのであれば、下にオモリ付きカゴを付けたサビキ釣りが最適です。ヒイラギは浅瀬の砂泥底を泳いでいることが多いので、まず足元に仕掛けを落とし、海底にオモリが付いたら、トントンと仕掛けを揺らして誘いましょう。なお、ヒイラギの口はかなり小さいので、針はできるだけ小さいものを用意しておきましょう。

ヌメヌメは塩で揉んで取り除く

ヒイラギは釣り上げると、透明な粘液を出します。そのままクーラーボックスに入れると、釣った他の魚までベトベトになってしまうので、レジ袋などに入れて隔離しておきましょう。

持ち帰ったヒイラギは、塩で揉んでヌメリを取り、内臓を出して下処理をしましょう。この粘液は別段人体に害があるわけではないのですが、ヒイラギは植物のヒイラギ(柊)の葉のように、ヒレがトゲトゲしているので、ヌメリを取らずに捌(さば)くと、手が滑ってトゲに刺さったときに痛い思いをします。

小粒だけど、パッと輝く美味さかな

下処理が済んだら、三枚におろしましょう。小さな魚なので包丁さばきに苦労しますが、ヒイラギの刺身の味はその苦労に見合う価値があります。




ヒイラギは小粒ながらも、高級魚シマアジによく似た旨味を持っています。しかも、皮目に甘味のある繊細な脂がたっぷり乗っており、醤油に浸すとパッと美しい油の膜が広がります。その光景はまるで満天の星空に無数の流星が流れるがごとし。小魚でこれほど満足できる味わいは他にはありません。




なお、刺身で落とした骨や頭は、捨てずにそれで出汁をとりましょう。また、小さすぎて刺身にすることができないヒイラギは、ヌメリを取らずに火にかけて、おつゆにしましょう。高知県の知られざる美食「ニロギ汁」は、このヒイラギを使った汁なのです。


【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。
 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「孤独のジビエ」http://kodokunogibier.blog.fc2.com/
Twitter:@rakurou21

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