東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.50- 良か嫁ぶり『ブリの刺身』

おいしい魚の条件のひとつは鮮度です。何より新鮮なのは、獲れたてピチピチの魚。自分で釣り上げた魚以上に新鮮なものはありません。そこで初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法について連載でお届けします。指南役は、狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をテーマに、幅広くご活躍中のアウトドアライター・東雲輝之さんです。

年の瀬を迎え、皆様色々とお忙しい日々を過ごされていることと思います。さて、この忙しい時期にやらなければならないことのひとつといえば、お歳暮選びではないでしょうか? 「果物の缶詰の詰め合わせは昨年贈ったし、サラダ油セットは一昨年に贈っていたな。ハムというのも芸がないし……う~ん、今年はいったい何を贈ればいいんだろう?」とデパートのお歳暮売り場で頭を抱えて悩む人を多く見かけます。そこで今年は、九州北部の漁村から始まり、関西や北陸から西での風習となっている「ブリ」というチョイスはいかがでしょうか?

『ブリ』ってどんな魚?

ブリは、南が東シナ海、北はカムチャッカ半島、東はハワイまでの北西太平洋に生息する回遊魚です。日本では日本海南部、北海道南部、九州の太平洋岸などに生息している重要な水産資源です。

以前に紹介していますが(第23回・ヒラマサ)、ブリは『ヒラマサ』とそっくりな見た目をしており、口角の角ばり具合や胸ビレの付く位置、腹ビレの形などで判別できます。見た目はそっくりなブリとヒラマサですが、身の味わいは大きく違い、特に寒い時期には、一般的にはブリのほうが美味と言われています。しかし気温の高い時期のブリは身から脂が抜け、食味が落ちるため、身質が安定しているヒラマサのほうが夏場は美味しいと言われています。

ブリは大きさによって名前が変わる出世魚としてもよく知られていますが、この名前は地方によって違います。また関東圏では、養殖されているイナダクラスの大きさを『ハマチ』と呼んでいます。
※表にあるのは代表的な名前の一つです。

どこで釣れるの?

ハマチが養殖されている“生けす”がリアス式の沿岸に多いように、ブリは流れの緩い沿岸部を回遊する魚です。よってブリは、堤防や磯、多くの場合は小型のボートの上から釣り上げます。

ブリは回遊魚なので、いつ、どこを泳いでいるかを知ることが、釣りをする上では重要なポイントです。そこでまずは山に登り、山の上から海面を眺めて、海の色が変わっている場所を見極めます。これは“山見(やまみ)”と呼ばれ、ブリのような回遊魚は水深の浅いところを大群で泳ぐ習性があるため、魚影で海の色がそこだけ黒く見えます。

山見をする人から釣りをする人への合図は、古くはノロシが使われていましたが、現在では携帯電話があるので大変便利になりました。そこでブリ釣りをするときは友達や家族に山見をお願いし、携帯電話で連絡を取りながら、ブリの居場所までボートをこいでいきましょう。

また、今ではGPSがあるため海上での自分の居場所も把握できますが、できればあらかじめコンパスを用意しておき、山見の方向と自分がどれだけ距離が離れているかを知る“山立て”と呼ばれるテクニックを活用しましょう。

どうやって釣るの?

ブリ釣りはヒラマサ釣りと同じように、メタルジグと呼ばれる金属製のルアーを使います。このルアーを堤防の上から沖に向かって投げ飛ばしたら、グリグリとリールを巻いて、メタルジグに“逃げまどう魚”を演じさせましょう。

狭いボートの上から釣るときは、竿をイラストより少し短めの7ft程度(約2m)を使うのがオススメです。

よか○○ぶり

『寒ブリ』という言葉があるとおり、冬場のブリは身が真っ白になるほど脂が乗り、とても美味しい魚です。よって、大きなブリが手に入ったら、まずはお刺身でいただきましょう。スーパーや居酒屋で並んでいるブリの刺身は、お皿の上で寝そべっていることが多いですが、本当に新鮮なブリの刺身は切り口が「ツンッ!」と立っており、口に入れると舌の上で転がせるほどの固さがあります。また、脂の乗ったブリは普通の醤油をはじいてしまうため、つける醤油は九州醤油のように甘くてトロっとしたものを使い、ワサビは溶かさずに刺身にのせるのが“通”の食べ方です。刺身醤油が無い場合は、普通の醤油に小さじ1の砂糖を溶かして煮立てると、同じような粘度になります。

余談ですが、私の生まれ故郷の九州北部(玄海灘沿い)では、結婚したその年のお歳暮に、新郎側の家族が新婦側の家族に対して寒ブリを贈るという不思議な習慣があります。これは「おたくの娘さんは働き者で、『よか嫁っ“ぶり”』ですばい」という意味が込められています。まぁ、出所は江戸時代に商魂たくましい博多商人たちに伝わった風習が広範囲に拡がったものですが、せっかくですから皆さんもこの“ノリ”に乗っかって、お仕事先へは「よか仕事っ“ぶり”」として、お友達へは「よか友達っ“ぶり”」として、お歳暮にブリを贈ってみてはいかがでしょうか?



【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。
 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「孤独のジビエ」http://kodokunogibier.blog.fc2.com/
Twitter:@rakurou21

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