東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.54- 釣り人を救う珍味『カメノテの味噌汁』

みそ汁の中に亀の手がたくさん、というインパクトがたまらない。初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法を、アウトドアライター・東雲輝之さんに教わる連載です。

冬枯れの季節は魚がさっぱり釣れません。海水温が低下すると魚たちは沖の深い場所に移動してしまうので、日によっては餌を撒いても小魚一匹姿を見せないこともあります。こんな日は、あきらめてさっさと撤退するに限りますが、どうしても「何か持って帰りたい!」という方は、救荒食ならぬ救釣食、「カメノテ」を採取して帰りましょう。

『カメノテ』ってどんな生物?

カメノテは、北海道南西部からマレー諸島にまで広く分布している、石灰質の殻を持った岩礁海岸の固着性動物です。名前の通り「亀の手」のように枝分かれした爪状の先端と、ウロコのようにザラザラとした柄が特徴です。

カメノテは一見、貝や海藻の仲間のように見えますが、実はエビやカニと同じ甲殻類です。ただし甲殻類といってもエビやカニのように動き回ることは無く、殻の中の細い触手(蔓脚・まんきゃく)で海水に含まれるプランクトンを食べる程度しか運動能力は持っていません。

どこで採れるの?

カメノテは岩と岩の隙間に張り付いて生息しています。そのため、磯や防波堤の切れ目など、岩が隙間になっているような場所であれば、どこでも見ることができます。さらにカメノテは群れになって固着するので、遠くからでも簡単に見つけることができます。

カメノテを採取するときは、岩の隙間にドライバーのような細長い金具を差し込んで、ほじくるようにして取り出しましょう。殻が鋭くなっているので、うっかり滑らせて手を切らないように十分注意してください。

冷えた体にホっとする旨味

採取したカメノテは表面に砂が付いているので、一粒ずつ丁寧に水で洗いましょう。カメノテを洗ったら鍋に入れ、水から煮出していきます。初めは強火で一気に沸騰させ、吹きこぼれる寸前で弱火にし、浮いてきた灰汁を取り除きましょう。グツグツ煮すぎると風味が飛んでしまうので、弱火で煮込んで、汁が薄緑になってきたら火を止めて味噌を溶かします。





カメノテの出汁は、豊潤な磯の風味を持っています。柄の部分を引っ張って殻をむくと白い身が現れるので、口を付けて「ちゅっ!」と吸い出すようにして食べましょう。磯の香りに加え、エビのような濃厚な旨味を堪能できます。




各地で食用とされていたにもかかわらず、これまでほとんど知名度がなかったカメノテですが、近年では、その滋味深い味わいが人気を呼び、豊洲市場でも取り扱われるようになりました。またスペイン料理では古くから「ペルセベ」と呼ばれる高級食材とされており、カメノテは簡単に採れるわりには美味しい食材として認知度が高まりつつあります。

ただしカメノテを採取するときは、一人一食分(20個程度)にとどめるようにしておきましょう。カメノテの成長は1年にたった2mmと非常に遅く、「たくさん生えているし、採るのも簡単だから」といって乱獲をしていると、すぐにその海域から絶滅してしまいます。よってカメノテの採取は、魚が釣れない時の、冷え切った心と体を温める“救いの味”として楽しむ程度にとどめておきましょう。


【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。
 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「孤独のジビエ」http://kodokunogibier.blog.fc2.com/
Twitter:@rakurou21

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