東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.55- 茹で方にコツがある『バテイラの塩茹で』

「貝の気持ち」を慮ることが大切です! 初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法を、アウトドアライター・東雲輝之さんに教わる連載です。

太古の漁村において魚が捕れなくなる冬枯れの季節では、「磯モノ」と呼ばれる磯近辺で採れる貝や海藻などの海産物が、重要な食糧とされてきました。現在では冬の食糧事情が改善し、これら磯モノが積極的に採取されることはほとんどなくなりましたが、“バテイラ”などの一部の貝類は「美味しい貝」として好んで食べられています。

『バテイラ』ってどんな貝?

バテイラは、北海道南部から九州太平洋側の沿岸部に広く生息している巻貝です。名前の由来は、斜めに歪んだ高さ5cm程の三角コーンのような姿が馬のヒヅメに似ていることからだとされています。しかし太古から地域的な食糧として食べられていたため、シッタカやツブ、ツム、ニシ、ニーナ、ビナ、ビイナなど、数十を超える地方名もあります。

どこで採れるの?

バテイラは、磯や消波ブロックの隙間など、色々な岩場に張り付いています。殻が三角に膨らんでいる形状から、見つけるのはそれほど難しくはありませんが、水面下数十cmのところに居ることが多いので、採るためには冷たい海水の中に二の腕まで浸けなければなりません。バテイラを採るのに夢中になっていたら、突然来た波をかぶって全身がズブ濡れ!……なんてこともあるので、タオルと着替えは用意しておいたほうがよいでしょう。なお、漁業権が指定されている場所では、その旨を示す看板が立っているので注意しましょう。

バテイラに“春”を思わせることが茹でるカギ

採取するのは簡単なバテイラですが、実はその“茹で方”が非常に難しく、美味しく調理するには「バテイラの気持ち」を理解しておかなければなりません。まず、バテイラは塩水から茹でますが、強火で茹で上げようとすると、「これまで冷たかった海水が、突然熱くなった!!」と驚いて、殻の奥に閉じこもろうとします。よってこのまま茹で上げてしまうと、身が縮こまって食感が硬くなるうえ、奥に入り込んで取り出すことが難しくなります。そこでバテイラを茹でるときは、まず塩水から極弱火で茹で始めるようにしましょう。

水温がジワジワと上昇してくるとバテイラは、「おや? もう春が来たのかな?」と勘違いして、身を殻の外に出して背伸びをします。ここで急激な強火にかけて一気に茹で上げると、バテイラは身を伸ばしたままの状態で茹で上がるため、身は柔らかく、しかも殻から取り出しやすくなります。




上手に茹でられたバテイラは、サザエやアワビに引けを取らない旨味と磯の香り、そして肝のホロっとした苦みも楽しむことができます。『騙して料理する』という、なんとも業が深い話ではありますが、これも「美味しいものを食べたい!」と研究を重ねてきた、人類の英知の結晶といえるのです。




【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。
 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「孤独のジビエ」http://kodokunogibier.blog.fc2.com/
Twitter:@rakurou21

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