東雲輝之【新鮮すぎる魚が食べたい。】-vol.56- 5億年変わらない味『ヒザラガイのぬた』

そういえば岩場でよく見かけるアレ、食べられるんですね。初心者でも楽しく釣って、おいしく食べる方法を、アウトドアライター・東雲輝之さんに教わる連載です。

太古の時代では冬場の貴重な食糧とされていた「磯モノ」には、実に様々な種類の貝や海藻があります。では、何が食べられて、何が食べられないのかと言うと……実は、磯で見かける貝や海藻は、結構何でも食べることができます。それがたとえ、見るからに食べられなさそうな磯の生物、「ヒザラガイ」であったとしてもです。

『ヒザラガイ』ってどんな生物?

ヒザラガイは、北海道南部から九州までの岩礁地帯に生息しており、その仲間を含めると、浅瀬から深海まで世界中のあらゆる海に生息しています。8枚の固い殻が並んでおり、見た目はダンゴムシやワラジムシのようですが、多板鋼(たばんこう)と呼ばれる原始的な軟体動物で、カブトガニやシーラカンスなどよりも遥か昔、5億年以上前から地球上に生息している、生物の“大先輩”といえる存在です。

どこで採れるの?

ヒザラガイは、磯や消波ブロック、防波堤の壁など、ありとあらゆる岩にへばりついており、逆にいないところを探すほうが難しいといえます。

ヒザラガイは腹側が強力な吸盤のようなつくりになっているので、手で引っ張っても取れません。よって採取する時は、マイナスドライバーのような先の細い道具を岩との隙間に差し込んで、岩から引きはがしましょう。

ヒザラガイは岩からはがすと、名前の由来の通り “ひざの関節”のように体を腹側へ丸く曲げて何かにくっつこうとするので、バケツやクーラーボックスのような壁面がある容器に入れると、壁に張り付いてなかなか取れなくなります。そこで柔らかいビニール製の袋に入れておけば、ヒザラガイ同士がくっついてボールのようになるので、持ち帰った後に下処理がしやすくなります。

美味しいが下処理が大変

持ち帰ったヒザラガイは、まず表面に付いた砂や石を、タワシでゴシゴシ擦(こす)って洗い流しましょう。



腹の薄ピンク色をした部分にゴミなどが付いていないことを確認したら、濃いめの塩水で茹でていきます。



10分ほど茹でたらザルに上げ、火傷しないように注意しながら熱くなった殻を剥いていきましょう。



殻を剥いた後の、ヒダヒダの中に黒い内臓が出てくるので、指でつまんで取り除き、流水で綺麗に洗い流します。



最後に口と端を切り落とします。ヒザラガイの口(歯舌・しぜつ)は、鉄分が多く含まれ磁石に反応します。よって、ここを食べるとジャリジャリして食感が悪いので取りましょう。また、岩にへばりついていた端の部分も、味が無くゴムみたいな食感なので切り落とします。最終的には腹の薄ピンク色のところだけが可食部として残ります。



ヒザラガイの身はバイ貝などの巻貝に味がよく似ており、コリコリとした食感で刺身でも食べられますが、ネギと酢味噌で和えた“ぬた”がよく合います。苦労して下処理したにもかかわらず、小指の先ほどしか身が取れないので、正直「そこまでして食べる価値はあるのか?」と疑問に感じるかもしれません。しかし5億年前からこの地球上に存在するヒザラガイは、すなわち私たちの遠い遠いご先祖様たちが食べていた可能性があるものです。つまりヒザラガイを食べるのは、「美味しいから」という食味が理由ではなく、「生命の長きにわたる熱い“ロマン”を感じる食材だから!」……という理由ではいかがでしょうか?


なお、ヒザラガイに限らず自分で採取して食べる貝類には、生息する海域や季節(特に夏場は注意)によりアレルギーの危険性があるものもあります。初めて採った貝を食べるときは、一度にたくさん食べすぎないように注意して、万が一息苦しさやめまいなどの症状が出た場合は、すぐに病院で受診してください。


【新鮮すぎる魚が食べたい。】は、毎週金曜日に掲載します。
 

文・写真・イラスト:東雲輝之(しののめ てるゆき)/1985年生まれ、福岡県北九州市出身。猟師&ライター。狩猟や釣り、養蜂など、自然から食を得て楽しむ“キャッチ&イート”をメインテーマとしたアウトドアライター。ジビエの流通やニホンミツバチ養蜂などの活動も行う。著書「これから始める人のための狩猟の教科書」、「イラストマニュアルはじめての養蜂」など(共に秀和システム)。
ブログ「孤独のジビエ」http://kodokunogibier.blog.fc2.com/
Twitter:@rakurou21

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