【コラム】誰でも料理が美味しくできる、11のヒント

おいしいものが大好きだけれど、自分で作ろうとすると、なぜか失敗ばかり。“おいしい料理”がわかっているだけに、イメージどおりに作れない、と悲しくなることがありませんか。そこで、東京・神楽坂の人気のフレンチレストラン「ル・マンジュ・トゥー」オーナーシェフの谷 昇さんに「誰でも料理が美味しくできるヒント」を教えていただきました。

1.素材を知る

野菜には個体差があります。産地や季節によって甘味も香りも水分量も違います。例えば玉ねぎを炒める際に水を加えますが、新玉ねぎはたっぷり水分を含んでいますし、貯蔵したものは貯蔵期間によっても差がありますが水分が少ない。それを見極めながら水を加減します。
 味つけも然り。同じグラム数だったとしても個々の性質によって味の感じ方が違うことがあります。肉も魚も同じです。各段階で味をみることはお約束ですが、最終的には自分の判断を信じて。

2.でき上がりをイメージして切る

例えば牛バラ肉のビール煮込みの場合。牛バラ肉は煮込むと3分の2ほどに小さくなります。ですから、でき上がりをイメージして切る大きさを決めることが大切です。とくにかたまり肉は形も大きさも違うわけですから、切り方も同様にはいきません。肉の個性を見極めて、最終的に体積が同じになるように切ります。野菜にも同じことが言えます。

3.手に持つ

素材の重さ・触感を感じることが重要です。魚でも野菜でも手に持てば、その状態がわかります。水分が多すぎたり、時間が経って乾いていたり。素材の状況を把握できれば、加減もできる。つまり失敗を防ぐことになるのです。
 例えば鶏肉に塩をふるとき、左手に持って右手で塩をふりますが、ぼくは100人分でも100枚すべてを手に持って塩をふります。

4.「塩こしょう」は辞書になし

「塩こしょう」という言葉はありません。こしょうは香りを求めるときに使うもの。ぼくは、こしょうが大好きだからこそ正しく使ってもらいたい。とくに焼きものの場合、高温で熱すると焦げ臭くなってしまうし、煮込み料理は最初から入れると苦味が残ってしまいます。こしょうを使うときは、必要性とタイミングを考えて。塩とこしょうは決してセットで使うものではありません。

5.塩は積み重ねる

最後に塩を一気に加えたのではカドが残ってしまいます。素材を加えるたびに少量ずつの塩をふることで、味が慣れて馴染んでいきます。小さな積み重ねの結果は大きい。自分の感覚でそのつど塩を加えるとなると、「濃くなりすぎないか」と不安になりますが、レシピがありますから大丈夫です。あらかじめトータルで使用する塩を小さな器にでも用意して、そこから使ってはどうでしょう。

6.下味はどこを食べても美味しくなるように

切り分けて盛りつける料理なら、どこを食べても均一に味がついているように、皿の上をイメージして塩をふります。かたまり肉なら、下味の段階で切る方向も考えます。
 また、鶏肉の皮は塩が浸透しにくいので、肉側にしっかり塩をふるであるとか。部分的に味が強くなったり、あるいは調理中に流れてしまわないように。素材の性質にも配慮します。

7.不要なものを除く

あくを取る、焼いている途中で出てくる脂を捨てる、よく出てくる工程ですが、その意味を考えたことはありますか? あくや余分な脂をなめてみてください。美味しくないはずです。無駄なものは丁寧に、躊躇なく取る。美味しい料理へのプロセスのひとつです。

8.グラグラ煮立てない

煮込み料理やじゃがいもをゆでるとき、ボコボコと沸騰する火加減は必要ありません。煮込み鍋の中で素材が踊るようではスープが濁り、煮崩れて仕上がりも美しくなく、食感も楽しめません。煮込み料理の火加減は強火にしないことが鉄則です。

9.美味しそうな焼き色

料理書によく登場する「きつね色」。みなさんはどんな色を思い浮かべますか? 焼く場合も揚げる場合も、ぼくは「美味しそうな色」であることが重要だと思っています。中に火が通っているかどうかは、時間だったり、弾力だったり、泡の様子だったり、他にも確認のしようがあります。けれど仕上げの色は皿の上までも支配します。また、味にも深く関わってきます。でき上がりは「美味しそうな色」を目指してください。

10.五感を使う

料理は目で見て、耳で音を聞き、鼻で香りを嗅ぎ、舌で味をみ、手ですべてを感じること。五感をフルに使います。極端な話をするならば、ジュウジュウと焼ける音や水分が油に当たってはねる音を聞き、焼ける香りを嗅いでいるなら、よそ見をしていても大丈夫。そんな側面もあります。

11.味は記憶なり

料理は記憶です。経験の積み重ねによって成長していくもの。こういうときはこういう味なんだ、と経験することです。記憶があれば、成功も失敗も瞬時に「ああ、こうだった」と思い出せます。つまり、次の失敗を回避できるということ。そのためには味をみます。
 見た目はさんざんでも食べてみたら許容範囲だった、という例もあります。そのつど味をみれば、誤差も少なくなります。とにかく味をみて経験値を高めてください。偉人の言葉を借りるなら、失敗は成功のためのプロセスです。

谷シェフの素材や料理への丁寧な愛情を感じる、この11のヒント、実に説得力があります。早速実践したくなったあなたへのおすすめは、谷シェフの著書『ル・マンジュ・トゥー 谷 昇シェフの ビストロ流ベーシック・レシピ』。「ヒント11」の写真にある、落とし卵のラタトゥイユの作り方も掲載しています。 

谷 昇(たに のぼる)/1952年東京生まれ。服部栄養専門学校在学中から六本木「イル・ド・フランス」で働き、卒業後就職。76年と89年に渡仏し、アルザスの三ツ星レストラン「クロコディル」などで経験を積む。帰国後は六本木「オー・シザーブル」などでシェフを務め、94年東京・新宿区納戸町に「ル・マンジュ・トゥー」開店。権威ある格付け本でも連続して高い評価を受ける人気店。月に1回、町田調理師専門学校の講師も務める。2012年、辻静雄食文化賞専門技術者賞を受賞。著書『ル・マンジュ・トゥー素描するフランス料理』(柴田書店)、『ビストロ仕立てのスープと煮込み』(世界文化社)など多数。

撮影:原 務