【コラム】カフェとはなにか?その歴史と今

今や私たちの生活にあたりまえのように溶け込んでいる“カフェ”の存在。一体いつ、どこでどのように“カフェ”が始まり、今に至るのか? イタリアを拠点にヨーロッパに関する取材・執筆・撮影を手がけている池田愛美さんと池田匡克さんの著書『最新版 ウィーンの優雅なカフェ&お菓子 ヨーロッパ伝統菓子の源流』から、カフェの歴史と今が見えてきます。

ウィーンの作家ハンス・ヴィーゲル曰く、「ウィーンの人々にとって、コーヒーは精神の一部である。バイエルンにおけるビール、スコットランドにおけるウイスキー、ラインの谷におけるワインのように」。

そのコーヒーがウィーンにもたらされたのは17世紀のことと言われている。

1683年第二次ウィーン包囲の折、以前よりオリエントとの交易に従事しトルコ語に堪能であったゲオルグ・フランツ・コルシツキーがヤン・ソビエスキー将軍ら率いるポーランド及び南ドイツからの援軍への伝令として、トルコ商人になりすまして前線を突破した。
 その功績の褒賞として敗走したトルコ軍が残していった黄土色の豆を所望。それを初めて見たウィーン人はラクダのエサか何かと思ったが、もちろんコルシツキーはそれがなんであるかわかっていた。
 そしてこのコーヒーを基にカフェハウスを開いたというのが、カフェハウス初めて物語だとされてきたが、現代では、これはバロック時代に流行った過剰に粉飾された伝説だとみなされている。

ウィーンで最初にカフェハウスを開いたのは、アルメニア人商人(一説にはギリシャ出身)のヨハネス・ディオダートだとする説が有力である。
 1685年、ハプスブルク家よりトルコとの交易を正式に認められた商人であったディオダートがスパイスや、カーペット、革製品などと一緒にコーヒーを扱い、シュテファン寺院のすぐ近くで商売した。当時のコーヒーは熱湯を加えるのではなく、またドリップするのでもなく、“蒸留”して抽出したという。

この時代には、ヨーロッパの各地でカフェが誕生している。1645年にはヴェネツィアで、1652年にロンドン、1671年にハンブルクとマルセイユ、1672年にはパリで。
 しかしそれ以前に、イギリス、フランス、ネーデルラント、ドイツのいくつかの州の宮廷や貴族の間ではコーヒー、チョコレート、紅茶が広まり、それまでのワインやビールに取って代わる嗜好品となっていた。

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18世紀に入ったウィーンでカフェは順調に市民権を得ていった。
 1700年7月16日、皇帝レオポルド1世は、カフェハウスのオーナーたちにコーヒー、紅茶、ホットチョコレート等のサービスを許可。1714年には11軒のカフェハウスが存在し、カール6世は彼らにライセンスを与えて保護し、1751年にマリア・テレジアが法律で正式に業種として認可した。
 以降、その数は増え続け、1737年には38軒だったのが、1770年には48軒、1784年に64軒、1800年頃に89軒、そして、1819年には150軒以上ものカフェハウスがあったという。

そもそもは単にコーヒーを飲ませる質素な場所だったが、18世紀も半ばを過ぎると、贅をこらしたカフェハウスが登場してくる。
 1770年にヨハン・エヴァンゲリスト・ミラーニがコールマルクトにオープンしたカフェは、広いエントランスホールに鏡張りのサロン、そしてビリヤードテーブルも備えていた。1808年に創業した「シルバー・カフェハウス」は盆からドアノブ、コートフック等家具調度品に至るなにもかもがシルバー製という贅沢さであった。
 また、新しいタイプとして、コンサート・カフェが出現。現存する最古のカフェ「フラウエンフーバー」(1824年創業)には、そこでモーツァルトやベートーヴェンが弾いたという石碑が外壁に掲げられている。

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1870年代以降、カフェの役割は劇的に変化する。それまでは主に男性のための場所だったのが、女性向けのパーラーが登場、女性同士が気ままなおしゃべりを楽しむ場として定着していった。そしてそこに不可欠なのがスイーツである。カフェハウスではより美味しく美しいスイーツの開発に力を入れた。

美しい空間、美味なる飲み物とお菓子と料理。つまりそこは実際の住まいよりもずっと快適な場所。皆がそこへ足繁く通い、ほとんど住むに等しいほどだったというのも道理である。
 エゴン・シーレはこう言ったという。「カフェハウスは、持つ必要のない我が家と言える。なぜなら、誰もがすでに“持っている”からだ」と。

1918年、ハプスブルク帝国は崩壊し、オーストリアは小さな一国となったが、カフェは生き存えた。1938年にその数は1238軒もあったという。
 そして第二次世界大戦後、カフェは新たなる局面を迎えた。1950年代、ウィーンでは、イタリア式のエスプレッソを導入した小さなコーヒーショップが次々に登場。昔からのカフェは、コーヒーも昔ながらの方法にこだわっていたが、その香りの良さ、簡便さから、やがてエスプレッソを扱うようになる。
 とはいえ、ウィーンのカフェが培ってきたカフェのバリエーションは変わらずに生き残り、そしてこれからも存在し続けるのである。

私たちの生活に溶け込んでいる居心地のいいカフェやおいしいコーヒー、スイーツも、その歴史を紐解けば、ウィーンに源流を見出すことができるのですね。歴史あるウィーンのカフェやスイーツをもっと知りたくなったら、こちらの本をどうぞ。ウィーンの老舗カフェの紹介から、スイーツの作り方まで、丁寧に取材しまとめた、美しくも読み応えのある1冊です。

 

文:池田愛美(いけだ まなみ)・写真:池田匡克(いけだ まさかつ)/雑誌編集者として出版社勤務後、1998年よりフィレンツェ在住。イタリアをはじめヨーロッパに関する雑誌、書籍の執筆、撮影を手がける。著書に『サルデーニャ!』(講談社)、『フィレンツェ美食散歩』『ローマ美食散歩』『アマルフィ&カプリ島 とっておきの散歩道』(ダイヤモンド社)、『伝説のイタリアン、ガルガのクチーナ・エスプレッサ』(河出書房新社)、『Dolce!イタリアの地方菓子』『極旨パスタ』(世界文化社)など。イタリアの料理、旅、書籍などを紹介するwebジャーナル「サポリタ SAPORITA」(http://saporitaweb.com)を主宰。