【コラム】アジアの缶詰事情

いざというときの非常食としてだけでなく、日々の料理に、はたまたおつまみに、と大変重宝するのが缶詰です。ところで世界の缶詰事情はどうなっているのでしょう? 今回は缶詰博士・黒川勇人さんに、「アジアの缶詰事情」を教えていただきます。

まったく意外なものが缶詰になっていたり、レトロなデザインが面白かったり。
豊富な食材であふれるアジアの缶詰は、とっても興味深い。

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タイに「I LIKE SPICY」という缶詰がある。「私はスパイシーなのが好き」という商品名がチャーミングだが、中にはタイ風鶏飯が入っている。これがものすごく美味しかった。茶色く炒められたタイ米はつやつやと輝き、弾力がありながら食感は軽い。鶏肉からうま味が出ていて、全体にフレッシュなバジルと唐辛子がよく利いている。今でも時々想い出しては、よだれを飲みこんでいる。

台湾には「麺筋」の缶詰がある。麺筋というのはグルテンを油で揚げたもので、それを薄い醤油味で煮てある。現地ではお粥に入れて食べたりするらしいが、ふわふわと柔らかく、ちょっと懐かしい味がするから面白い。ピーナッツと一緒に味付けされたおつまみバージョンもあった。

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韓国には、悪食で知られる「ポンテギ」の缶詰がある。蚕のさなぎを味付けしたもので、虫に弱い人は絶対に近寄ってはいけない。何しろ体節がくっきり刻まれた茶色のさなぎちゃんが、黒い汁に浮きつ沈みつしているのだ。全体に饐えたような匂いがし、食感はしゃくしゃくしているが、やや甘い味付けの中にかすかな苦みがある。
 韓国内でも好みがはっきり分かれるというが、日本にだって蜂の子やイナゴの缶詰がある。負けてないのだ。

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ぐーんとアジアの西端イスタンブールまで行くと、有名なエジプシャンバザールの肉屋に、なぜか魚の缶詰がたくさん置いてあった。中でも直径15センチの丸くて平たい缶詰に惹かれ、手に取ってみるとイワシの絵が描いてある。英語で「これはオイルサーディンか」と尋ねると、店員は笑顔で何度も頷き、トルコ語で何か話してくる。互いにまったく言葉が通じないのだけど、あまりにも笑顔が素晴らしかったので2缶購入した。
 ところが日本に帰って開けてみたら、オイルサーディンではなくアンチョビだった。それも、見たこともない大きなアンチョビが上下2段詰めで、合計40尾も詰まっていたのだ。おかげで、その後しばらくはトーストにアンチョビ、サラダにもアンチョビと、塩辛い生活が続いたのであった。

うなぎ紅焼(Taiwan)
味付けは日本の蒲焼きに似ているが、シナモンなどの五香が利いていてちょっと中華風。食感はやや固く、しっかりと火を通した感じだ。

ポンテギ入り野菜スープ(Korea)
蚕のさなぎのスープは缶に盛りつけ例の写真が印刷されていて、それだけでも軽いホラー状態。お味については、ご想像にお任せしたい。

落花生の醤油煮(China)
千葉では落花生を塩茹でにするが、中国では砂糖醤油で煮るのだ。甘辛くて酒のアテにいい。シンガポールのスーパーで購入したもの。

イワシのトマトソース漬け(Malaysia)
日本は醤油味が多いが、アジアから中東、アフリカまでイワシといえばトマトソース。チーズと一緒にホットサンドにするととても美味。

巨大アンチョビ(Turkey)
使われているイワシがビッグで、長さが10センチはある。背骨と尾がついたままというワイルドさは、他の国では見たことがない。

日本人にとっては驚きの缶詰が、まだまだ世界にはたくさんありそうですね。でも日本で手に入る定番の缶詰を使って、アジアン風やイタリアン風のおつまみを作って楽しむこともできるのです。黒川さんのコラムも読める本『缶詰で作る世界のおつまみ 缶つま ザ・ワールド』で確認してみましょう。

 

黒川勇人(くろかわ はやと)/1966年福島県生まれ。缶詰に精通していることから“缶詰博士”と呼ばれ、新聞やTVなど様々なメディアで活躍中。著書に『日本全国「ローカル缶詰」驚きの逸品36 』(講談社プラスアルファ新書)など。

イラストレーション:山本直孝
撮影:鵜澤昭彦