【コラム】まず味わうべきクラフトビールの5つのスタイル

ビールのおいしい季節。仕事終わりに飲む一口目は、プハーッ!旨いものです。「とりあえず」と頼みがちなビールですが、本当に自分が一番おいしいと思えるビールを選んでいますか? どうせ飲むなら、よりおいしく自分好みに。そんな「欲」が出てきたあなたに、『厳選世界のビール手帖』から、自分好みのクラフトビールの選び方を伝授します。 

愉しきビールの世界

ビールにはさまざまな「スタイル」がある。スタイルとは言ってしまえば、種類(タイプ)のことだが、これが本当に多い。色、香り、味わい、アルコール度数などによって多岐にわたり、厳密に定義するのが難しいものも数多くある。
 ここでは、ビールを愉しむにあたって、大きく「味わい」でカテゴリー分けした。自分が好む味わいを見つけておくと、パブや酒屋でビールを選ぶとき、非常に役に立つ。一度飲んで「おいしい」と感じたビールに近い味わいのものを試して、そこから手を広げていくとよいだろう。

ビールを味わう上でまず味わうべき5つのスタイル

ビールの種類「スタイル」は、細かいものでは100種類以上に分けられている。ここでは、本格的なクラフトビールを効率的に、違いを楽しみながら味わうために最適な5つの代表的スタイルを取り上げ、飲んでみるべきビールを紹介する。
 いつものビールが好きなら「ピルスナー」。ビールの香りが知りたいなら「ペールエール」。いつものビールが物足りないなら「IPA」、苦みが苦手なら「ヴァイツェン」。黒ビールが好きなら「スタウト」がおすすめだ。
 クラフトビールの入門に、まずはこの5つのスタイルを飲み比べよう。自分の好みを知ることが、これからのビアライフをより楽しいものにする。

【ピルスナー】――いつもの「ビール」の特別版

ボヘミアン(チェコ)とジャーマンスタイルが正統。世界一ポピュラーなビアスタイル。
チェコで誕生した、世界中で愛飲されている淡色系のラガー(下面発酵ビール)。
喉ごし爽やかな、心地よいホップの苦み。

現在、世界中で醸造され、飲まれているビールの多くが、このピルスナーだ。
 ピルスナーを特徴づける世界初の淡色ビールは、チェコ・ピルゼンで誕生した。チェコはもともとエールタイプのビールを造っていた。しかし、エールは非常に腐敗しやすく、廃棄処分するはめになることも多かった。そこで、エールではなく、ドイツのラガーを導入することを決議し、バイエルンから醸造士を招聘してミュンヒナー(ドゥンケル)の醸造に踏み切った。
 そして1842年10月、いざ熟成が完了してグラスに注がれたビールを見て、醸造家たちは驚いた。ミュンヒナーと同じくダークカラーであるべきビールの色が、明るい黄金色をしていたからだ。加えて、重厚な味わいのミュンヒナーと異なる、すっきりとしたキレのかつてない味わいに感嘆の声が上がったという。
 この淡色ビールはすぐに輸出されるようになり、ヨーロッパ各地で持てはやされた。20世紀に入ると世界市場を席巻し、現在に続くピルスナー全盛期につながった。
銘柄:ピルスナー・ウルケル(チェコ)/フレンスブルガー ピルスナー(ドイツ)/コープランド(日本)/プリマ・ピルス(アメリカ)など

【ペールエール】――香りが違う!

香りよく、味わい深いイギリス伝統のエール。泡を立てず、温めで飲むのが現地流。
イギリスのバートン・オン・トレント発祥、エール(上面発酵ビール)の代表。
濃い琥珀色、独特なドライで締まりのある苦み。

16世紀以来、エールの銘醸地として知られる、イギリスのバートン・オン・トレント。この地の水は石膏濃度が高い硬水で、淡色(ポーター、スタウトの黒に比べて)かつ濃厚な味わいのビールを醸造するのに適している。現在、水に石膏を添加することを「バートナイズ(バートン化)」というほど理想的な水なのだ。
 ここで造られるエールは「バートン・エール」と呼ばれ、17世紀にはすでにヨーロッパ各地に盛んに輸出されていた。いつしか、イギリスでよく飲まれるポーターやスタウトに比べて色が薄いことから「ペール(薄い)エール」と呼ばれるようになった。
 現在は、ペールエールの名が主流。ほとんどのイギリスのエールは、ビールを発酵・熟成させた地下室の温度(約13℃)で飲まれる。適切にサーブされたエールを味わうと、「冷やし過ぎてはいけない」の意味がわかる。
銘柄:シエラネバダ ペールエール(アメリカ)/ザ・フル・ネルソン(イギリス)/フラーズ ロンドン プライド(イギリス)/よなよなエール(日本)など

【IPA(インディア・ペールエール)】――ガツンと苦みを味わう

ホップの香り、苦み、アルコール感もインパクト大。好きか嫌いか、好みがはっきり分かれる。
18世紀後半、インドへの輸出用に、長く暑い航海に耐えられる日持ちするエールとして開発。
大量に投入されたホップ、強烈な苦みが決め手。

1760年代、イギリスのインド経営が本格化すると、現地にイギリス人の植民地統治者が送り込まれた。安全な水が得られない植民地において、エールは生活必需品であったが、通常のエールでは長い航海の間に酸敗(腐って酸っぱくなること)してしまう。そこで、ロンドンのホジソン醸造所がインドへの輸出用に、糖度を高くし(アルコール分が高くなる)、ホップを大量に添加して保存性を高めたところ、香りも苦みも強烈にキャラ立ったエールができた。これがIPA(India Pale Ale)の始まりだ。
 1840年頃には、イギリス国内でもIPAの需要が高まり、広く醸造されていた。現在、20世紀後半にアメリカから始まったクラフトビールの流行を受けて、もっとも注目されているスタイルと言っても過言ではない。
銘柄:パンクIPA(スコットランド)/ジャックハマーIPA(スコットランド)/バラストポイント スカルピンIPA(アメリカ)/ストーンIPA(アメリカ)など

【ヴァイツェン】――苦みが苦手な人に

南ドイツで愛されてきたウィート(小麦)のビール。
ビールらしくない、フルーティなエステル香と、小麦麦芽による独特の風味、爽やかな酸味。

ビール愛好家であれば、ドイツと聞けば「ビール」、そして「ミュンヘン」を思い浮かべるだろう。
 南ドイツのバイエルン州ミュンヘンは、古くから知られたビール醸造のメッカ。そして、世界最大のビールの祭典「オクトーバーフェスト」の舞台でもある。地域に根ざした個性的なビアスタイルが地元の人々に愛されているのは言うまでもないが、バイエルンで特に人気があるのが「ヴァイスビア(白ビール)」。最低50%以上の小麦麦芽を使用して造られる、ヴァイツェン(ドイツ語で小麦)のビールだ。
 ヴァイツェンはフルーティな香り、爽やかな酸味、爽快な喉ごしが特徴。起源は中世まで溯るという、古典的なドイツのビアスタイルの一つ。これら、小麦ビールの多くは、1980年代中頃になるまでその他の地域で飲まれることは少なかった。しかし、ビールの多様性に触れることができる、わかりやすい違いがうけ、世界各地でも生産・消費量が伸びている。
銘柄:ヴァイエンシュテファン クリスタルヴァイスビア(ドイツ)/富士桜高原麦酒 ヴァイツェン(日本)/プランク ヘフェヴァイツェン(ドイツ)/シュナイダー・ヴァイセ タップ6 アヴェンティヌス(ドイツ)など

【スタウト】――ローストの楽しさを知る

ローストモルトによる真っ黒な液色、焦げ感と苦み。どこかまろやかで芳醇な黒ビール。
アイルランド伝統のドライ・スタウト「ギネス」で知られる黒ビール。
香ばしいモルトの焦げ感と舌触りが醍醐味。

黒ビールの代表として知られるギネスは、「ドライ・スタウト」「アイリッシュ・スタウト」と呼ばれる、アイルランド発祥のエールだ。
 スタウトは、もともとは「ポーター」と呼ばれる濃色エールの一種だった。18世紀、アイルランドの醸造家アーサー・ギネスがポーターを醸造した。マッシュ・タン(麦芽を糖化させ、麦汁をつくるための容器)内でローストした麦芽を使用することで、ドライでロースト感のあるビールができ上がった。これが「アイリッシュ・ドライ・スタウト」の誕生となった。
 現在、ギネスはアイルランド伝統のエールというブランドイメージとともに、世界中にファンを獲得している。多くのビアスタイルに派生があるように、スタウトもドライ(辛口)のほか、スウィート(甘口)の「ミルクスタウト」「オートミールスタウト」、高アルコールの「インペリアルロシアンスタウト」などがある。
銘柄:ギネス エクストラスタウト(アイルランド)/エール・スミス スピードウェイスタウト(アメリカ)/インペリアルチョコレートスタウト(日本)/ライオン スタウト(スリランカ)など

いかがですか? ビールのスタイルは100を超える種類があると言われていますが、飲み比べて、ぜひ自分好みのスタイルを見つけてみましょう。 

監修:一般社団法人 日本ビアジャーナリスト協会/広く深いビールの愉しさを伝えていくことを目的に、ビールに関するあらゆる情報を発信。「ビールに対する高い知識」「伝えるための高い能力」を持つ、ビアジャーナリストの教育・育成に励む。http://www.jbja.jp

撮影:山上 忠