【コラム】韓国では学校も、会社も休みになる!? キムチ作りは一大イベント!

韓国の食卓に欠かせない「キムチ」は、今や日本人の食生活にもすっかり溶け込み、おなじみの一品となりました。冷蔵庫に必ずあるというご家庭も多いのでは。では本場・韓国で、キムチはどのように作られているのでしょうか? 
 韓国でのキムチ作りの事情について、東京・四谷にある韓国家庭料理「妻家房」総料理長の柳 香姫さんが、著書『本当においしく作れる韓国家庭料理』の中で解説しています。

キムチの誕生は意外に新しい!?

キムチは赤い。そうですね。でも真っ赤なキムチになったのは、わずか18世紀ごろのこと。16世紀末に唐辛子が日本から韓国に渡り、その後しばらくたってからなのです。それまでは唐辛子が使われていませんでした。

キムチの祖先は約2000年前。中国から朝鮮半島に伝わった、塩漬けし発酵した「菹(そ)」と呼ばれる漬けもの。当時は大根が主流でした。その後、酒粕、麹、穀物殻などで発酵させるものや、しょうゆ漬けにするものなど、野菜をさまざまな食品で漬ける方法が発達したそうです。キムチという名も、塩漬けの野菜が汁の中に沈むことから「沈菜(チムチェ)」と呼ばれ、それがティムチェ→チムチ→キムチと変化したそうです。

キムジャンキムチって何?

キムチには季節の野菜で作って長期保存をしない「季節キムチ」と、秋口に作って野菜の少ない冬の栄養源とする「キムジャンキムチ」があります。白菜キムチは後者のひとつ。キムジャンとは越冬用のキムチを作る行事のこと。11月中に1週間ほどかけて作るのですが、その味は地方によって違います。

大きく分けると、北部は気温が比較的低いため、腐敗の心配がないので唐辛子や塩が少なめで、汁気が多く淡泊。南部は保存のために塩や魚醤が多めで、過度な発酵を防ぐため、にんにく、しょうが、唐辛子も多めに使うそう。またその家によって材料や分量が違うので、家の数だけキムチの味があるといいます。

キムジャンは立冬前後に行われ、キムジャン市場が立ちます。漬ける白菜は、一家でなんと100~200株。市場では山高く積まれ、唐辛子やあみの塩辛などキムジャンに使う材料もそろいます。

学校によっては、キムジャン休暇を設けて学生が手伝えるようにし、会社によってはキムジャンボーナスとして、特別手当が支給されます。とにかく大がかりなので、ご近所や親類などとキムジャンの日が重ならないようにし、お互いに手伝い合ったそうです。


「妻家房」四谷本店のキムチ博物館のショーケースに展示されている、キムチを漬ける様子を再現したミニチュア人形。かつてのキムチ作りが手にとるようにわかる。所蔵/妻家房

キムチ作りは清く、正しく、美しく!?

韓国では、物質をほかの物質に変えられるのは神様だけ。同じように発酵にも必ず神秘的な何かが加えられ、神の怒りを買うようなことがあれば、異変が起こってまずくなると信じられていました。

そのせいか、キムジャンキムチには厳しいルールがあったようです。キムチの材料を漬け込むとき、たとえば、
1.厄神と悪鬼のない吉日を選ぶ。
2.7日前から飲食や行動を慎み、沐浴して心身を清める。
3.喪中の家や不吉な出来事のある家、屠殺の現場やその近くに行ってはならない。
4.言い争ったり、泣いたりしてはならない。
5.不浄なものを見聞きしたり、喋った場合は目、耳、口を洗い清める。
などなど。

また塩漬けのときは特に注意が必要です。気持ちが不安定になるとキムチの出来が悪くなるので、夫や姑、夫の祖母など夫側の家族からできるだけストレスを受けないよう気をつけます。これには科学的な根拠があるそうです。立腹したり不機嫌だと塩分の血中濃度に異常が生じ、味覚を狂わせてしまうとか。

現在は以上のようなルールはありませんが、キムジャンキムチ作りが韓国人にとっていかに神聖で、重要な作業だったかということがわかります。

温度管理が命

キムジャンキムチは5℃前後で温度変化なしに発酵、貯蔵すればずっとおいしく食べられます。温度変化を防ぐには、なんといっても冷蔵保存。ただひと冬分のキムチとなると相当な量ですから、冷蔵庫に入りません。そこで熱伝導を遮断する「土」がキーとなります。

まずキムチを保存する陶器の甕(かめ)。土で作る陶器は一定温度を維持するのに向いています。また、わずかながら空気を通すことができるので、微生物の活動の妨げにもなりません。そしてこの甕を地中に埋め、藁(わら)をかぶせて温度の低下を防ぎました。現在は気候の変化が激しいため、また住宅事情によって埋めることはほとんどありません。

キムチ冷蔵庫の謎

さて、では現在はどのように保存しているのでしょうか。

昔のようにひと冬分を漬けず、量が少なめなので、キムチ専用の冷蔵庫に保存します。この冷蔵庫に保存すると、味が変わらず、4か月はおいしくいただけます。その秘密は……、冷蔵庫は通常、一定間隔で冷却を反復するため、庫内の温度差が大きく、キムチを1週間ほど保存すると味が変化してしまいます。また、開閉時にも冷気が逃げ、温かい空気が入ってしまいます。

その点キムチ冷蔵庫は、引き出し式、または上部開閉式で冷気が逃げずに庫内を一定の温度で保てる構造です。この冷蔵庫、最近は果物や野菜なども凍結せず、新鮮なまま長期保存が可能なタイプが主流で、家庭での必需品になっています。

韓国ではキムチ作りは冬の風物詩ともなっているようです。環境や漬ける人の状況にも出来栄えが左右されるとあらば、おいしいキムチとの出会いは一期一会かもしれません。いろいろなキムチを食べて、自分のお気に入りの味を探してみるのも楽しいですね。

 

柳 香姫(リュウ ヒャンヒ)/1952年、韓国・大邱生まれ。韓国料理研究家、韓国家庭料理「妻家房」総料理長。1985年に来日。ていねいで味わい深い手料理が、友人の間で評判となり、1993年、夫・呉 永錫さんとともに「妻家房」をオープン。月2回のキムチ教室や、カルチャーセンターでは、さまざまなキムチの作り方をわかりやすくレクチャーし、本場のキムチが習えると熱心に通う生徒も多い。たびたび韓国を訪れては、よりおいしい食材や調味料探しに余念がない。幼いころから家庭でおいしい料理を食べてきた長女の呉 知宣さんも料理研究家。

撮影:高橋栄一