【コラム】天ぷらは“蒸し料理”だった!「てんぷら近藤」に教わる、家庭で簡単に作れる極上天ぷらの基本・その1

「おいしく食べたい」と思うほど、自分で作るには色々な意味でハードルが高いと感じてしまう“天ぷら”。ついつい「天ぷらはおいしいお店で食べればいいや」と思いがちです。そんな状況を「もったいない」と嘆くのは、東京・銀座の名店「てんぷら近藤」店主の近藤文夫さんです。家庭でもやさしくおいしい天ぷらを作るコツを教えてくださいました。

天ぷらに大切なのは、イメージである。

天ぷらを作ることは楽しい。そしておもしろい。50年以上、毎日天ぷらを揚げ続けていますが、しみじみそう思います。最近は、油ものの料理をしない家庭が多いと聞きますが、もったいないですね。

私がいちばんにお伝えしたいのは、「素材ありき」という考え方。

天ぷらというと、みなさんすぐに「ころも」のことで頭がいっぱいになる。ころもをどう作るか、どうやったらサクッと揚げられるのか……。そう考えるばかりで、肝心な「素材をおいしくする」のが目的だということ、すっかり忘れていませんか?

この素材のおいしさは何か、どうすればおいしさを生かせるか、そのためのころもの作り方であり、油の扱い方、揚げ方を工夫するのが正しい道筋です。

ご家庭で良質な素材が豊富に手に入る時代になり、天ぷらにもますます「素材を生かす」考え方が求められています。それには、素材ごとに「こう揚げたい」という目指す天ぷらのイメージをはっきりともつことが大事です。

美しい色を生かす。みずみずしさを保つ。旨みや香りを引き出す。食感を生かす──、そうしたイメージをもつだけで、軽やかで、素材のおいしさが引き立つ天ぷらができ上がるはず。

天ぷらとは“蒸し料理”である。


天ぷらは、油で揚げて作りますね。それはその通りです。でも、「何料理ですか?」と聞かれたら、自信をもって「蒸し料理」と答えます。これが私の持論です。

天ぷらは、ころもという膜で素材を包み、熱い油の中で「素材自身の水分で蒸すように火を入れる」料理だからです。

私の天ぷらは、まず薄力粉をまぶし、その上にころもをつけてから油に入れるのが基本。これが、蒸し料理にするための必要なプロセスです。素材を薄力粉で覆うことで、ころもとの間にすき間ができるため、理想的な蒸し空間になるのです。

もうひとつ、天ぷらを「蒸し料理」として完成させるのに必要なのが、余熱調理です。

油から取り出した時は、まだでき上がりではありません。紙にのせ、油をきる1~2分の間に余熱で蒸らします。これが最終の火入れであり、完成形です。油でレアに揚げ、余熱の蒸らしでミディアムレアに仕上げるイメージですね。

この余熱調理が前提なら、完全に火が入る一歩手前で油から引き上げるので、素材の水分をよいバランスで残すことができます。揚げてなお、みずみずしく、香り高く、素材の持ち味も存分に味わえる天ぷらになるというわけです。

ぜひ、みなさんも切って観察してみてください。切り口から湯気がふんわりと上がり、断面が水分で潤っていればきちんと蒸された証。水分の多い素材なら、したたり落ちるのがわかるでしょう。これまでの天ぷらとは、まるで違う仕上がりになりますよ。

家庭ではフライパンがいいんです。


まずは道具から。家庭で天ぷらを作るなら、フライパンがいちばんです。

専門店では両手付きの天ぷら専用鍋を使いますが、それに代わる使い勝手のよいものが、実はフライパンなのです。縁の高さが足りないのでは?と思うかもしれませんが、油は3cmの深さがあれば充分。フライパンの高さで問題ありません。

フライパンのすぐれたところは、厚手で底がフラットなので、油全体の温度がほぼ同じになること(薄手のアルミ製は適しません)。これはきれいに揚げるための大事な条件です。面積が広いので、一度にたくさん揚げられて便利で、使う油の量も3cm深さなので経済的です。高さのあるたねの場合は、フライパンの柄を少し持ち上げ、奥のほうを深くすればいいのです。すり鉢状の中華鍋は向きません。

フライパンで注意したいことはひとつだけ。専用鍋に比べて油の全体量が少ないので、温度の変動が大きいこと。一度に数人分を揚げる時は、油を揚げる適温より10℃高めに熱してスタートし、たねを揚げている間は適温をキープします。時間がたったりたねの量が多かったりすると温度が下がってくるので、揚げている間も適宜火を強めるなどして、調整しましょう。

油の深さは3cmがベスト!


次は油の準備です。私の店では、2種類のごま油をブレンドして使っています。生搾りの「太白(たいはく)ごま油」と、炒って香ばしい香りをつけた「焙煎ごま油」。これらを3:1で合わせるのが、揚がり具合や香りの点でちょうどよいバランスです。

ごま油は熱酸化に強いので高温で揚げても劣化が少なく、カラリと揚がります。香りがよく、旨みもあって、揚げものに向いている油ですね。アクのある素材も、油がアクを抜き、色を保ち、おいしくしてくれると思います。

ただ、太白ごま油は少々高価です。日常の食事ならサラダ油でかまいません。サラダ油と焙煎ごま油を、同じように3:1で混ぜてください。直径26~28cmのフライパンなら、およそサラダ油1.2kgと焙煎ごま油400g。これで深さ3cm前後になるはずです。

この3cmは、天ぷらを揚げるのにベストな深さです。油が少ないと、フライパンの底に素材がくっついたり、油の上に出ている部分が増えたりして、きれいに揚がりません。逆に油が多すぎても、たねを入れた後に下がった温度が元に戻るまでに時間がかかり、適温で揚げられないというむずかしさがあります。

「フライパンに3cm深さの油」と覚えておきましょう。


「天ぷらは蒸し料理」「フライパンに3cm深さの油」とは、まさに目からうろこ! なんだか自分でも上手に揚げられそうな気がしてきませんか? 来週はさらに“ころも”について教えていただきます。



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近藤文夫(こんどう ふみお)/東京・銀座「てんぷら近藤」店主。東京生まれ。高校卒業後、東京・神田駿河台「山の上ホテル」に入り、和食・天ぷらの部門に配属。23歳で「てんぷらと和食 山の上」の料理長に抜擢、以後21年間務めた。1991年に独立し、「てんぷら近藤」を開店。薄ごろもで揚げる手法や野菜天ぷらなど、斬新な発想で、独自の天ぷらを提案し続けている。

撮影:日置武晴