【コラム】イタリアの地方出身のドルチェとパンが、世界中で愛される理由とは?

イタリアのパンやお菓子、と言えば、フォカッチャ、ティラミス、パンナコッタ等々、今では日本でもすっかりおなじみとなっているものがたくさんあります。多くの人に愛される食べ物に歴史あり。本日は、イタリア在住のフードジャーナリスト・須山雄子さんの著書『イタリアの地方菓子とパン』から、イタリアで多くのおいしいパンやお菓子が作られてきた、その背景についてご紹介します。

イタリア菓子といえば、まず思い浮かぶのはティラミスではないだろうか?

昨年の夏、そのティラミスのルーツをめぐり論争が起きた。発端は、フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州が、ティラミスを自州の伝統的な農産物加工品リストに入れ、農林政策省が認めたからだ。それまで長いことヴェネト州発祥と認識されてきたことから、これを知ったヴェネト州ザイア知事は異議を唱え、政府の良識ある判断を求めて、撤回を強く訴えたのである。

このようにイタリアの人々とドルチェの関係は、とても熱く深い。

イタリアの朝も、実はドルチェではじまる。家庭では、甘いクッキーとカフェ・ラッテの組み合わせのほか、パンやプレーンラスクにジャムやチョコレートクリーム、また前の晩に残ったケーキということもある。

バールでも、カップチーノを片手にジャムやチョコレート入りのブリオッシュを頬張る人たちで賑わうのが典型的な朝の光景だ。朝食は、即エネルギーになる甘いものが最適というのがイタリア人の理屈である。




朝だけではなく、おしゃべり好きのイタリア人にとって、ドルチェは話を弾ませ、フレンドリーな交友関係を盛り上げるために大いに役立っている。

食事に招待された時の定番の手みやげは、チョコレート菓子やミニヨンと呼ぶプチケーキ類である。直径4cmほどの生クリームやチョコクリーム入りのシューや、カスタードクリーム入りの長さ5cmの折りパイ生地コルネ、そして最近ローマやミラノでもナポリ発スフォリアテッレのミニ版なども加わるようになった。

一方ティータイムの訪問には、レトロ調の化粧缶入りブルッティ・エ・ブオーニやひとつずつ銀紙に包まれた可愛いバーチ・ディ・ダーマなどが、歓迎される焼き菓子である。




ところで、イタリアでは、食卓にパスタはなくても、パンがないと食事がはじまらない。「パンのようによい人」という表現があるように、パンは善良なイメージとともに、イタリアの食の根幹をなす重要な存在である。実家から戻る際は、幼い頃から慣れ親しんだ郷土のパンを、わざわざ持ち帰ることも多い。

南北に長い地形を持つイタリアでは、気候風土の違いから、収穫される産物に多様な個性が生まれる。なかでも高い生産量を誇る小麦は、伝統的にイタリアの食文化を築いてきた立役者である。

菓子やパンの基本材料の小麦も、北部の軟質、南部の硬質と地域により異なる性格を持つ種類が栽培され、使われている。それら素材の風味がストレートに伝わる素直な味や歯応え、豊かなバリエーションが地方菓子やパンの大きな特色だ。

それゆえ地方ごとに菓子やパンの店に並ぶ顔ぶれも大きく違う。各地方の店頭のショーケースには、郷土カラーが色濃く残り、いまだに現地でしかお目にかかれない菓子やパンも存在する。

またイタリアは、幾多の民族から影響を受けて来た長い歴史を持つ。そのため各地で醸成された固有な食文化のもと、地方菓子もパンも、それぞれ独特な生い立ちを背負い、成長してきたのである。





 

ご紹介している須山さんの著書『イタリアの地方菓子とパン』では、さまざまな背景から生まれ、育まれてきた多彩なイタリア全州の地方菓子とパン94品について、そのエピソードやレシピを紹介しています。

須山雄子(すやま ゆうこ)/東京・品川生まれ。明治学院大学社会学部卒業後、渡伊。ペルージャ外国人大学、ペルージャ州立ホテル学校調理人課コースを経て、1984年よりミラノ在住。レストラン、食材など食関係についての取材及びコーディネート活動を続ける傍ら、毎日イタリア料理を作る主婦でもある。著書に『イタリアの地方菓子』(料理王国社刊)。多くの雑誌、書籍にて精力的に活躍、『イタリアのレストラン』『イタリアの地方料理』『リーゾ』(以上柴田書店刊)、『お菓子の基本大図鑑』(講談社刊)、『ダル・ペスカトーレ 至極のレシピ集』(日本文芸社刊)などに携わる。

撮影:Giovanni Gerardi