【コラム】寄席の帰りにどこに寄る? 思わず食べたくなる垂涎の落語五題

6月の第1月曜日、つまり今日は「寄席の日」。そこで今日は落語に登場する食べ物にまつわるお話を、大衆芸能脚本家の稲田和浩さんの著書『ゼロから分かる! 図解落語入門』からご紹介します。まるで本当にそこにあるかのように、おいしそうに食べる噺家さんのしぐさを見るだけで、寄席帰りに食べたくなること請け合いです。

「時そば」「うどん屋」で、落語家が扇子を箸に見立てて、うまそうに食べる場面をよく見る。他にも、まんじゅう、羊羹(ようかん)、握り飯など、食べるしぐさを見るのも落語の楽しみの一つかもしれない。

食べ物の出てくる落語では、江戸の人の食生活を垣間見ることもできる。江戸時代は長屋などに一人暮らしをしている独身の男性が多く、屋台のそば屋やうどん屋が繁盛した。長屋には必ず、ご飯を炊くへっつい(竈・かまど)があった。おかずは、味噌汁に、たくあんか梅干しという質素なものだったが、庶民でも江戸っ子はぜいたくに白米を食べていた。

旬の魚や野菜を棒手振りの八百屋や魚屋が売りに来て、たまにはそれらが食卓に上ることもある。食生活を楽しみながら暮らしていたことがよくわかる。

時そば


噺の舞台:そば屋の屋台
登場人物:最初の男、最初のそば屋、二番目の男、二番目のそば屋
荷を担いで売り歩く屋台のそば屋が繁盛していた時代、そばの値段は十六文で、俗に二八そばといわれた。ある男が銭を数える途中で時刻を聞いて、一文ごまかした。その様子を見ていた男がいた。

二番煎じ


噺の舞台:夜道、番小屋
登場人物:月番、惣助、夜回りの人たち、役人
火事が多い江戸の街、自分たちの財産を火事から守ろうと、旦那衆が「火の用心」の夜回りをすることになる。寒い夜、ようやく一回りして番小屋に戻ると、一人が寒さしのぎに酒を持ってきていた。

まんじゅうこわい


噺の舞台:
登場人物:町内の若い衆たち
町内の若い衆が集まり、バカ話をしている。「何が怖いか」という話になると、一人の男が「怖いものなんてない」と威張り出すが、男はある怖いものを思い出し、ブルブルと震え出す。

目黒のさんま


噺の舞台:屋敷、目黒、他の大名の屋敷
登場人物:殿様、家来、目黒の住人、他の大名家の台所役人
殿様が目黒に遠乗りに出かけた。お腹がすいたが弁当がない。そこへ農家で秋刀魚を焼いているいい匂いがしてきて、殿様が食べることに。秋刀魚は庶民が食べる魚。殿様は食べたことがなかったので、旬の秋刀魚のうまさに驚く。

青菜


噺の舞台:お屋敷、長屋
登場人物:植木屋、女房、旦那、奥様、友達の大工
植木屋がお屋敷で旦那から酒と鯉のあらいを振る舞われる。旦那が菜を持ってくるよう奥様に言うが、奥様が菜を切らしていることを隠し言葉で伝える。植木屋は家に戻り、隠し言葉を真似しようと女房に頼む。

【こんな噺も!】食通を気取るとタイヘン

日本の三大珍味と呼ばれるものが、雲丹(ウニ)、海鼠腸(このわた)、からすみ。海鼠腸はナマコの腸の塩辛、からすみはボラの卵巣の塩漬け。知らないで口にするのは勇気がいる。珍味とゲテモノの区別はなんだろう。落語の珍味といえば「ちりとてちん」と「酢豆腐」。豆腐の腐ったものを珍味と偽り、食通を気取ったヤツに食わせちゃおうといういたずら。だが、食通を気取った男も負けてはいない。強烈な臭いをものともせず一気に口に入れてはみたが。

 

稲田和浩(いなだ かずひろ)/大衆芸能脚本家。1960年東京都生まれ。日本大学芸術学部演劇学科卒業。タウン誌記者、コピーライターを経て、86年頃より作家活動を始める。演芸(落語、講談、浪曲、漫才)の台本、邦楽(長唄、新内、琵琶、端唄など)の作詞、演劇の脚本、演出などを手がけ、演芸情報誌『東京かわら版』の編集にも携わっている。また芸能評論や現代風俗、江戸風俗などに関する執筆、講演などでも活躍している。著書に『食べる落語』(教育評論社)、『落語が教えてくれる生活の知恵30』(明治書院)、『落語長屋 噺の処方箋』(アールズ出版)など多数。
http://blog.livedoor.jp/ganbaresinsaku/

イラストレーション:小野寺美恵