【コラム】日本酒入門―あなたの知らない日本酒の世界。冷やと冷酒、何が違う?

なんとなくわかったつもりになっていても、実はあまりよく知らない、という方も多い「日本酒」の世界。たとえば「冷や」と「冷酒」の違いはわかりますか? え、同じじゃないの? と思った方はご一読あれ。酒食ジャーナリスト・山本洋子さんの著書『ゼロから分かる! 図解 日本酒入門』から、日本酒初心者の「米」さんと、日本酒指南役の「純」さんの掛け合いでご紹介します。

冷やと冷酒、じつは違うものなんです

 コホン。だいぶ日本酒になじんできたワタクシですが、通の頼み方としてはまずは「冷や」ですかねえ。
 「冷や」いいですね。ときに米さん、「冷や」と「冷酒」の違いはご存知ですか?
 えっ、どちらも同じじゃないんですか?
 冷酒は文字どおり、冷たく冷やしたお酒です。そして「冷や」は、冷酒と同じ「冷」の字がつくものの、冷やした酒ではありません。ちょっとややこしいですね。その昔は、冷蔵庫がなく日本酒を「冷たくする」という習慣がありませんでした。もともと日本酒は温めて飲むのが基本。お酒といえば燗酒だったんです。
 燗酒が基本だったんですね。燗していない酒に対して、冷や酒……。「かん」と「ひや」しかなかった名残。なるほど、冷蔵庫が登場して、冷やして飲んでおいしい吟醸酒ができて、飲み方が変わったのですね。
 そうです。昔は、冷や酒は、「貧乏人の冷や酒」とか、「親の意見と冷や酒はあとできく」とか言われて、敬遠されたものなのです。そして居酒屋さんで「冷やください〜」と言えば、昔は常温のまま出してくれるのが当たり前でした。今は冷蔵庫から出したばかりのよく冷えた酒が出てくることが増えました。
 喫茶店で「お冷やちょうだい」と言うと「冷たい水」ですもんね。
 とある居酒屋さんで「冷や」を頼んだお客さんが、冷たい酒がテーブルに置かれたのを見て、「俺は冷や酒を頼んだんだ!」「だから、冷や酒ですよ!」「だから! 俺が飲みたいのは冷や酒なんだよ」と禅問答のような、あてどもない会話が繰り返されるのを聞いたことがあります。
 冷やといっても、冷やしていないお酒……。
 特に日本酒専門店の場合、お酒が管理のために冷蔵庫に入っていることが多く、融通がきかないこともありますね。店員さんが「冷や=常温」と知らないこともありますが、お客さんの方も「冷やは冷酒だ」と思い込んでいる場合が多いです。「なんだよ、生ぬるいじゃないか」と常温の冷や酒に文句言ってる人もいましたから。
 私も勘違いしてました……。
 冷たい酒を飲みたい時は「冷たい冷酒で」。冷やを飲みたい時は「常温で」と具体的に伝えた方がいいですね。
 “ひやひや”したくないですもんね(笑)。

“キリッと冷えた日本酒を”なんてのは最近の話

冷蔵庫の普及に伴い冷酒向きの酒が増え、品質管理の徹底で冷蔵貯蔵が一般化。保管温度と飲用温度は別と考えて、好みの温度で飲みましょう。


1900年~ 氷で冷やす木造冷蔵庫が登場

電気冷蔵庫はなく木製の氷式冷蔵庫。上に氷の塊を入れる氷室があり、氷の冷気で下の食材を冷やした。国産第1号の冷蔵庫は1930年に誕生したが、小さな庭つきの家が建てられるほど高価なもの。酒を冷やすなんてとてもとても。


1950年~ 電気冷蔵庫が普及

家庭用小型冷蔵庫が登場。高度成長時代に入り国民の所得も増え、「白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機」が三種の神器で消費ブームに。1958年には3%だった普及率も、1965年頃から急激に増え始め、1971年には90%まで普及。冷蔵庫の普及に合わせ清涼飲料水やビールが爆発的に売れ始めた。


「貧乏人の冷や酒」とは

昔は酒は燗して飲むのが当たり前。貝原益軒の『養生訓』でも「温かい飲み物は体によい」と記される。温めることでうまみが増え、やわらかくなった。アルコールは体温に近い温度で吸収されるため、冷や酒だと酔いを感じるまで時間差が生じる。燗酒は吸収も早く、酔いすぎることが少ない。

 

山本洋子(やまもと ようこ)/酒食ジャーナリスト 地域食ブランドアドバイザー。鳥取県境港市・ゲゲゲの妖怪の町生まれ。素食やマクロビオティック・玄米雑穀・野菜・伝統発酵調味料・米の酒をテーマにした雑誌編集長を経て、地方に埋もれた「日本のお宝! 応援」をライフワークにする。「日本の米の価値を最大化するのは上質な純米酒」+穀物、野菜・魚・発酵食、身土不二、一物全体を心がける食と飲生活を提案。地域食ブランドアドバイザー、純米酒&酒肴セミナー講師、酒食ジャーナリストとして全国で活動中。境港FISH大使。著書『純米酒BOOK』(グラフ社)、『厳選日本酒手帖』『厳選紅茶手帖』(世界文化社)。モットーは「1日1合純米酒! 田んぼの未来を燗がえる!」。
http://www.yohkoyama.com

イラストレーション:水谷慶大