【コラム】フレンチの基本、肉や魚をおいしく「焼く」ための5つのコツとは?

肉や魚の焼き方? そんなことは簡単だよ。とわかったような気になっているあなた。塩コショウをご丁寧に、両面にまんべんなくふりかけていませんか? その後、フライパンがあったまるのをじっと待っていたりしませんか? おいしく食べたいなら、どうやらその常識は間違っているようです。東京・神楽坂で人気のフレンチレストラン「ル・マンジュ・トゥー」オーナーシェフの谷 昇さんに、肉や魚をおいしく焼くための基本的なコツを伺いましょう。

肉でも魚でも、焼くテクニックはほとんど同じです。
 僕は、焼くときは基本的にフッ素樹脂加工のフライパンを使います。普通の家庭用のものです。オーブンはほとんど使いません。“ウソでしょ”と言われますが、本当です。
 僕がお教えするように作っていただければ、必ずおいしく焼くことができます。

1.塩をふるのは身側だけ。素材が変わっても同じ

下味の塩は身側だけにふる、皮にはふらない、これ原則です。皮にふってもしみ込まずにはじくので、焼くと油に移って、焦げたようになる。そんな“焦げた油塩”の中で素材を焼くと、そのいやな味をまといますよね。僕にとっては、あり得ません。
 また、身に塩をしたら、できれば少しおいてください。15分から30分。塩が浸透するから、味つけはこれだけで完了です。

2.フッ素樹脂加工のフライパンは、冷たいうちに素材を入れてもいい

フライパンを熱々にしてから素材を入れる、と思っている人、多いですよね。これは鉄のフライパンを使うときのやり方。よく焼いておかないと素材がこびりつくからです。フッ素樹脂加工のフライパンには必要ありません。
 熱々のフライパンに素材を入れると、瞬間的に“チュン”という音、するでしょう。これ、素材から出たたんぱく質を含む水分が一気に蒸発する音です。ごく短時間で焼き上げる牛肉や薄めの豚肉、水分の多い野菜は別ですが、皮つきやかたまりの肉や魚では温めるのをやめましょう。とくに身はやさしく加熱して、旨みのジュースを逃がさないようにしながら芯まで火を入れたいので、徐々に温度を上げていくほうが理にかなっています。
 そのためにも、肉も魚も焼く前に常温にもどしておきましょう。 

3.焼き方も、素材が変わっても原則同じ

焼くときには、油が必要です。フライパンの面ではなく、熱せられた油を媒介して、素材に火を入れていくからです。
 具体的には、皮付きの素材はフライパンに必要最小限の油を入れ、皮を下にして焼き始めます。皮が身を守ってくれるから、やさしく火が入るんです。豚肉や牛肉のように両側とも身の場合は、盛りつけたときに上になる側を下にします。フライパンを前後にゆするか、トングで持ち上げて油をすべらせ、素材の下につねに油がある状態をキープしながら焼いていきます。
 フライパンをゆすらずにそのままほうっておくと、どうなるでしょう。トングで持ち上げて肉の下を見てください。肉の形に沿って油がなくなっているはずです。このままだと焦げます。焼きもののとき、必ず守ってほしいのがこの作業です。

4.素材から出るサウンドを聞け!

焼くときは、温度も大切です。その目安となるのが、シュワシュワシュワという音。これ、素材から出た水分が油ではねて蒸発するときの音です。油が高温すぎると音量が大きく速いリズムで、低すぎると小さくて遅いリズムの音がします。音がしなくなったら、素材に水分がなくなってきた証拠。ここから焦げやすくなります。
 このように素材が発するサウンドをよーく聞きながら焼いてください。このサウンドの変化を聞くことが、僕の焼くときの一番の楽しみなんですよ。

5.肉と魚、焼き方の最大の違いは、“アロゼ”するかしないか

皮付きの素材を焼くときは、基本的に皮側だけフライパンに当てます。繊細な身を200℃近い温度に直接当てたくないからです。
 そこで、下の面がある程度焼けたら熱い油をすくってかけて、身に間接的に火を入れます。これで素材の中心が60~70℃になってたんぱく質が変性し始める温度になります。この作業を“アロゼ”といいます。
 ただし、アロゼをするのは肉だけです。魚にはしません。アロゼのもう1つ大切な目的が、油に溶け出した旨みやたんぱく質を戻すことだから。魚の場合は臭みも溶け出しますから、絶対にしないように。
 またアロゼのときに油がはねることがあります。気をつけましょう。

この5つのコツを意識して、いつもの手順を少し変えるだけで、肉も魚もおいしく焼けそうですね。早速トライしてみたくなったかたには、谷シェフの著書『「ル・マンジュ・トゥー」谷 昇のおいしい理由。フレンチのきほん、完全レシピ』がおすすめです。おいしく「煮る」ための5つのコツも載っていますよ。 

谷 昇(たに のぼる)/東京・神楽坂のフレンチレストラン「ル・マンジュ・トゥー」オーナーシェフ。1952年東京生まれ。アンドレ・パッション氏がシェフを務める「イル・ド・フランス」やアルザスの三ツ星レストラン「クロコディル」などで研鑽を積み、六本木のビストロ「オー・シザーブル」のシェフに。94年「ル・マンジュ・トゥー」をオープンする。長年にわたり月に1回、町田調理師専門学校の講師も務めており、それらの経験を踏まえた誰もがわかりやすく、理路整然とした教え方に定評がある。

撮影:日置武晴